第112章



 由紀が転校してきてからはじめての家庭科の授業が訪れた。
 由紀は、小さい頃から料理をするのが好きで、小学校でも家庭科の調理実習が好きだった。
 そのため、この聖女学園でも少なからず家庭科の授業を心待ちにしていた。
 しかし、聖女学園で行われる調理実習が、通常の料理を習うことになるはずもないのだった。

 家庭科室に移動した2年生の生徒たちは、休み時間中の雑然とした雰囲気の中にいたが、女子生徒の5人は疲れた表情を見せていた。
 この家庭科室も、特別教室として音楽室と同様、校舎の2階に位置している。
 つまり、ここに至るまでに、廊下の三角棒、そして階段の傾斜三角棒、そして水上綱渡りといった破廉恥な道のりを越えてきたのである。
 そこに、亜紀子が入ってきた。
 家庭科の担当はそのときどきで変わるが、きょうは亜紀子が担当することになっていた。
 入ってきた亜紀子の手には、5着のエプロンが乗っている。

「はい皆さん、きょうは調理実習の時間です。
 制服を汚すといけないから、女子のみんなは、このエプロンに着替えてくださいね」

 亜紀子はそう言いながら、女子生徒ひとりひとりにエプロンを手渡していった。
 それは、給食のときに着せられているフリルいっぱいの装飾がなされたエプロンとは異なり、非常にシンプルで実用的な形をしたエプロンだった。
 しかし、そのエプロンを手渡された由紀は、それを見て表情が固まってしまった。

「の…希ちゃん……、これ……」

 由紀が不安そうな目で希の方をうかがうが、希は諦めたような表情を由紀に返し、目を閉じてゆっくりとうなずいた。
 初めて家庭科の調理実習をする由紀であっても、毎日給食の時間に裸エプロンにされている経験上、このエプロンを身につけるときに制服を着られるなどとは思っていない。
 この聖女学園において何か別の衣装に身を包むときには、必ずといっていいほど制服を脱ぎ、素肌の上に身に着けなければならないことは、既に暗黙の了解となっている。
 しかし、このエプロンを身につけることは、いやこのエプロンを身につけた自分の姿を想像することは、ためらわれてしまう。
 何しろ、そのエプロンは縁取りされた部分以外の生地が、ほぼ完全な透明に近い状態なのである。
 このエプロンを素肌の上に着ただけでは、身体を何ひとつ隠すことはできない。
 しかし、迷っている余裕もなかった。

「由紀ちゃん、早く着替えないとダメ。
 授業が始まるまでに着替え終わらないと、裸で授業を受けさせられるわ。
 それも、この後の授業もずっと」

「そ、そんなっ……」

 こんなエプロンでは裸も同然である。
 しかし、着替えないとこの授業だけではなく、きょう一日裸で過ごさなければなくなる……。
 そんな恥ずかしい状況になることは、絶対に避けなければならなかった。
 授業開始のチャイムが鳴るまで、あと2〜3分程度。
 由紀は、急いで制服に手をかけた。

 セーラー服を脱ぐ。
 もちろん、片手を器用に使って胸元を隠すことは忘れない。
 しかし、それもエプロンを身につけるまでのわずかの間の防護策に過ぎなかった。
 エプロンの紐を肩や背中に回すためには、どうしても両手を使う必要がある。
 特に、背中で紐を結ぶときには、どうやったところで胸を隠すことなどできはしない。
 由紀は、羞恥に顔を赤らめながらも目をギュッとつむりながら、両手を背中に回してエプロンの紐を結んだ。
 前屈みになって胸元を隠そうと無駄な努力をする由紀だったが、当然そんなことで隠れるわけもなく、周りを取り囲んだ男子生徒の目に、由紀の胸の膨らみから乳首の先までもが、透明なエプロン越しに丸見えになったのだった。
 そして、エプロンを身につけてから、再び胸元を手で覆いながら、最後の制服であるスカートに手をかける。
 ウェストのホックを外してファスナーを緩めると、ストンとスカートが床に落ちた。
 由紀はすかさず片手で下腹部をエプロン越しに押さえて、男子たちの目から恥部を庇う。
 お尻が丸見えになってしまうのは、我慢するよりしようがなかった。

 これまでのわずかな学園生活の間でさえも、何度も男子生徒の目に裸を晒してしまっている由紀であったが、決してその恥ずかしさに慣れるということはなく、いつも強い羞恥心に打ちひしがれている。
 由紀は、自分がこの先もずっと、この羞恥の仕打ちに慣れることはないのだろうと、半ば諦めていた。
 自分の性格から考えて、このような辱めに慣れることは、望めそうにないのだった。
 しかし、それは何も由紀だけに限ったことではなかった。
 由紀が視線を巡らせれば、少し離れたところで着替え終わったほかの女子生徒たちもまた、恥ずかしさに頬を染めながら、身体を必死に隠している。
 1年以上もこの学園で破廉恥の限りを尽くされている女の子に対してさえも、やはり乙女の柔肌を晒すという行為は、耐え難い仕打ちなのだった。

「さぁ、みんな着替え終わったかしら?
 もうすぐ授業が始まるわよ」

 亜紀子がそう言ったところで、授業開始のチャイムが鳴った。
 一番着替えが遅かった瑞穂も、辛うじてチャイムが鳴る前に着替えを終えることができていた。
 しかし、それは自ら素っ裸も同然の姿になるという、恥ずかしい姿になることを意味しているのだった。

「はい、それじゃあ授業をはじめるわよ。
 まず女子のみんなは、いつものように前に並んで。
 これからお料理するんですから、身だしなみを整えて、身体のどこも汚れていないことを確認してもらうんですよ」

 調理実習を行うときには、衛生的で料理をするのにふさわしい身体であることを確認するためと称して、女子生徒は必ず身体がよく見える透明エプロンを着用して、自分の身体がきれいであることを確認してもらうことが義務付けられている。
 それが、亜紀子の説明だった。
 無論、こじつけであることは誰もが理解しているが、この学園においては反論は許されない。

「ほら、みんな。
 きちんと確認してもらうんですから、手で身体を隠すんじゃありません!
 きちんと両手を下ろして、気をつけをしなさい」

 亜紀子は、身体を小さくしながら恥部を隠している少女たちの背筋を伸ばさせ、両手を横につけてまっすぐに立つように指導していく。
 そして、5人の少女たちによる、全裸透明エプロン鑑賞会となったのだった。
 家庭科室の前に並んでいる少女たちは、透明なエプロン越しにそのすべてを晒している。
 恥ずかしそうに色づいている乳首から、魅惑の亀裂を見せる股間まで、そのすべてをあらわにした姿で、そのどこも隠すことすら許されずに立たされている。
 男子生徒たちは、家庭科室の前で横一列に並んで裸を晒している少女たちの姿を楽しそうに観察し、そしてこれから始まる調理実習で繰り広げられるであろう恥態を思い浮かべて、笑みを浮かべるのだった。


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