第104章



「あんたたち、いいかげんにしなさい!」

 足早に学校へと歩いている希と由紀の前方から、声が聞こえてきた。
 聞き覚えのある声に、由紀がふと顔を上げると、そこには小さな女の子を庇うようにしている真由美の姿が見えた。
 当然、その女の子も、真由美も、靴下と靴以外身に着けることのない全裸である。
 いくら気が強い真由美といえども、学園のルールに逆らうことは許されず、朝日の下、形よく膨らんだ胸、柔らかく丸みを帯びたお尻を晒しながらの登校を余儀なくされている。
 産毛すら生えていない無毛の割れ目は、片手で隠していた。

 そんな真由美に庇われるように、小さな女の子が、身を縮めて立っていた。
 片側に小さく髪をまとめた小柄な女の子で、素っ裸のまま周りを取り囲む男子たちに、まるで小動物のようにおびえて震えている。

「あ、真由美ちゃんと、あゆみちゃん・・・・・・」

 希のつぶやきに、由紀もその真由美とともにいる女の子が、学園でときおり見かける下級生の子であることを思い出した。 

「あゆみちゃんがかわいそうでしょ!
 もう、やめなさい!
 この子、こんなにおびえて。
 まだ1年生なのに・・・、入学してから1ヶ月しかたっていないんだから!」

 真由美の声はさらに高くなって、周りの男子たちを威圧するような口調になっていった。
 あゆみを取り囲んでいる男子たちは、2年生の生徒たち3人だった。
 先輩の男子生徒に囲まれて、からかいや辱めを受けたあゆみは、抵抗することもできず、泣きそうな顔で立ち尽くしていた。
 登校中、男子生徒に囲まれて動けなくなっていたあゆみを見かけた真由美は、下級生の女の子に対する男子たちの仕打ちに見かねて、間に割って入ったのだった。

「真由美ちゃん、ぼくらはあゆみちゃんと仲良く学校に行こうとしているだけだよ」

「そうそう、かわいい下級生と一緒に登校しようとしているだけなのに」

 素っ裸の女の子を取り囲んで仲良くもないものだが、ここでは、そんな文句は通用しない。

「あんたたちだけで、さっさと学校に行けばいいでしょ!」

 真由美は、そんな男子たちを汚らわしいものでも見るような目で睨んで、言い放った。

「そんなこと言ったって、裸の女の子が外を歩いているんだぜ、一緒にいたくもなるじゃないか」

 男子生徒は、いやらしい笑みを浮かべながら、あゆみの未成熟な身体と、真由美の成長過程の身体を見つめて、からかうような口調になっていく。

「くっ・・・・・・」

 真由美は、股間だけではなく胸元も腕で隠して、頬を赤らめながらも、男子生徒を睨みつける。

「それに、入学して1ヶ月もたったんだから、そろそろあゆみちゃんにも、ここの仕組みに慣れてもらわないとね。
 そのための手助けをしてあげているんだよ」

「そうそう、一度うちの学園の本質をたっぷりと味わった方が、慣れが早いかと思ってね」

「そう言えば、真由美ちゃんが初めて反省室に入ったのも、このぐらいの時期じゃなかったけ?
 あゆみちゃんは、まだ反省室って入ったことないよね。
 そろそろ、一度入ってみると、新しい自分を発見できるかもしれないよ」

「そうだな。
 何たって、この真由美ちゃんも反省室に入って、自分のお尻がどれだけ素晴らしいものかっていうことを、初めて知ったんだからね」

 男子たちが思い出すように話す言葉に、真由美は悔しさと恥ずかしさが混ざった表情で唇を噛む。

「俺、今でもあのときの真由美ちゃんのビデオ、見ているぜ。
 洗浄台の上でお股広げて仰け反ってんの。
 お尻の穴にブラシ突っ込まれてかき回されたときの表情は忘れられないな。
 あのビンタした凛々しい真由美ちゃんとは思えないほどの、呆けっぷり」

「そうそう、はじめは
 『放せ! こんな格好で何をする?!』
 って、強がっていたくせに、
 『ごめんなさい、もう生意気なことは言いません〜』
 とか、
 『もうやめて、お願い、見ないでぇ〜』
 とか言って、ヒィヒィ喘ぎまくっているの。
 ハッハッハ」

「真由美ちゃんが僕らに謝る姿を見せるなんて、あのときが初めてじゃなかったっけ?」

「そうだそうだ。
 『お願いします、許してくださいぃぃ〜〜〜〜』
 って、泣きながら叫んでいたよね」

「やっぱり、女子はみんな一度反省室に入るようにしないとダメだな。
 この前の希ちゃんも、よかったよな。
 ほら、あの寮のコンセントチェック。
 俺の部屋まで来て、クリトリス、ビリビリいわせながら喘いでいたぜ」

「僕は、2階の水槽の中でウナギに責め立てられているところがよかったなぁ〜。
 なんたって、僕、あのとき希ちゃんのクリトリスの糸引っ張っていたんだからね。
 腰を突き出したて仰け反らせたり、屈ませたり自由自在っていう感じで、最後には希ちゃんあんな浅い水槽で溺れそうになっていたもん」

 どんどんエスカレートしていく男子たちの会話に、あゆみは身を強ばらせて震え、真由美は歯を食いしばって恥辱に耐えていた。

「そうだな、希ちゃんの反省もこの間終わっちゃったし、今度は、いっそあゆみちゃんに反省室に入ってもらった方がいいんじゃないかな?」

「いいね、それ。
 1年生の初々しい反省姿も、久しぶりに見てみたいな」

「ひっ・・・・・・!」

 男子たちのその言葉に、あゆみが身体をビクッとさせる。
 そんなあゆみを庇って、真由美がこれまで以上に険しい目で男子たちを見据え、声を上げた。

「あんたたち、これ以上あゆみちゃんをいじめるな!」

 しかし、いくら声を荒げたところで、所詮は素っ裸の女の子が言っているのである。
 男子たちを威嚇することはかなわなかった。
 男子たちは余裕のあるそぶりで、真由美に応えた。

「だから、いじめているんじゃないって。
 僕らはただ、あゆみちゃんと仲良く登校したいだけだって。
 ただ、もしあゆみちゃんがあんまり聞き分けがないようだったら、上級生として、ちょっと『ご指導』してあげようかと思ってね」

「くっ・・・・・・」

 もはや、真由美にはこれ以上言葉をつむぐことができなかった。
 この学園では、ここまで男子生徒が開き直った態度を取ってしまうと、もはや、女子生徒が何を言っても無駄な努力となってしまうことを、これまでの経験から嫌というほど思い知らされている。
 しかし、せめてあゆみだけでも、この場から逃がしたい。

「・・・・・・どうすれば、あゆみちゃんを解放する・・・・・・?」

 真由美は、低い声で男子に問い掛けた。
 ここまできた以上、2人とも無事にこの場を後にすることは不可能である。
 周りには、2年生の男子3人だけではなく、ほかの生徒も集まり出し、ざっと見て10人ぐらいは自分たちを見ていた。
 その人垣の向こう側に、希と由紀の姿を見かけた真由美は、彼女たちからすっと目をそらし、相対する男子生徒を睨むのだった。

「そうだなぁ、僕らはあゆみちゃんと遊びたかったんだけど、どうしてもそれを許せないって言うんだったら、代わりに真由美ちゃんが付き合ってよ。
 そうしたら、あゆみちゃんにはひとりで学校に行ってもらうからさ」

「そ、そんな、真由美先輩、あたしなら大丈夫ですから!」

 自分の身代わりに真由美の身体が犠牲になろうとしていると知ったあゆみは、勇気を振り絞って反抗した。
 しかし、その声は真由美の手で遮られ、

「いいから、ここはわたしに任せて、あゆみちゃんは早く学校に行って」

 と言われて、あゆみは、背中を押されて囲みの中から押し出された。
 そして、真由美は男子の方に向き直り、冷たい笑みを浮かべながら、

「わかったわ。
 それじゃあ、わたしと一緒に学校に行きましょう。
 変態の男子生徒の皆々様」

 と、堂々と言い放った。
 男子を蔑む馬鹿丁寧な言葉は、真由美のせめてもの抵抗の証である。

「ふん、凛々しいねぇ、真由美ちゃん。
 でも、『変態』の僕らとしては、そんな両手で胸と股間を隠しているような真由美ちゃんじゃあ、物足りないんだけどなぁ。
 あゆみちゃんの代わりに、その『変態さん』たちと一緒に登校するんだから、真由美ちゃんも、『変態さん』みたく、堂々と胸もアソコも見せつけてくれないと、つりあわないんじゃないかな?
 それとも、やっぱりあゆみちゃんを呼んでこようか?」

 男子たちも平然と真由美の罵倒を受け止め、さらに揚げ足を取るように切り返す。

「くっ・・・・・・」

 真由美は、唇をきつく噛み締めながらも、男子たちの言うとおりに両手を胸と股間から放して両脇に垂らし、朝日のもとに、そして男子たちの眼前に自らの恥部を晒した。

「・・・・・・これで、いいかしら?・・・・・・」

 あくまでも、冷静な無感動を装って、真由美は応える。
 真由美の胸元には白い肌に桜色の乳首が、そして股間には、ツルツルとしたパイパンの割れ目が見える。
 その姿を、周りの男子たちもじっくりと見詰めていた。
 既に、周りを取り囲む男子生徒の数は、当初の3人から12人に増えていた。
 上級生である3年生もいれば、下級生の1年生もいる。
 その全ての男子生徒に、真由美は満遍なく自らの裸体の恥部を全てさらけ出させられていた。

 そして真由美は、そのままさっそうと学校に向かって歩き出した。
 その脇を、男子生徒が取り囲むように歩いていく。
 両手を握り締め、両脚をきびきびと動かしながら歩いていく真由美の顔は、その動きとは裏腹に、真っ赤に染まっており、真由美の屈辱と羞恥心とが浮き彫りになっているのだった。 


「希ちゃん、真由美ちゃんがっ!」

 歩き去っていく真由美の後ろ姿を見て、由紀が慌てたように希の方に向き直る。
 そして、思いがけず追いかけようとした由紀の手を、希が握って由紀を止めた。

「行っちゃダメ、由紀ちゃん。
 真由美ちゃんの覚悟が無駄になっちゃう」

「え・・・」

「真由美ちゃんは、わたしたち・・・多分・・・まだ転校間もない由紀ちゃんの分も合わせて、男子たちの注意を引こうとしたんだよ。
 なのに、わたしたちが追いかけたら・・・・・・」

「そ、そう・・・・・・だったの・・・・・・」

「うん、真由美ちゃんと目が合ったとき、そういう感じがした・・・・・・。
 だから、追いかけちゃダメ」

「・・・・・・わ、わかった・・・」

(真由美ちゃん・・・・・・ゴメン・・・・・・)

 由紀は、自分の身をも助けてくれた真由美に心の中で謝った。
 そして、希に手を引かれるようにして、男子たちの集団から離れて、なるべく目だたないように学校へと歩いていった。
 とはいえ、類稀な美少女が全裸で外を歩いているのである。
 完全に、興味を引かずに歩くことはできず、希たちの周りにも、何人かの男子生徒が寄ってきた。

 しかし、先ほどのあゆみと真由美に対するような仕打ちは受けずに済んだのだった。 


 そうして、全裸で学校にたどり着き、三角棒を経てなんとかクリーニングセンターにたどり着いた希と由紀は、クリーニングセンターのお姉さんから、自分たちの制服と、体操服一式を受け取って、ようやくその場でセーラー服を身に着けることができた。
 メッシュ生地で中が透けやすく、そしてスリットが入ってすぐにも恥ずかしい部分を露にしてしまうような制服であったが、完全な全裸との気持ちの差は大きく、由紀たちにわずかな安堵感を覚えさせたのだった。 


 由紀たちが教室にたどり着いてから、10分ぐらいしたところで、真由美が制服を身に着けた姿で教室に入ってきた。
 頬には、わずかに汗が滴っている。
 由紀たちは気がつかなかったが、どこかで真由美を追い抜いてしまったようだった。

 由紀は、すぐに真由美に駆け寄った。

「真由美ちゃん、大丈夫だった?!」

 そんな由紀の姿を目に留めた真由美は、

「由紀ちゃんたちこそ、大丈夫だった?」

 と、問い返してきた。

「う・・・うん、わたしたちは大丈夫」

「そう、ならよかったわ。
 それじゃあ、ちょっと疲れたから・・・ごめんね」

 真由美は、それだけ言うと、由紀から離れて窓の方へと歩き、窓枠にもたれかかって、わずかな休息を得たのだった。 


 真由美と前後して教室に入ってきた男子生徒たちは、口々に楽しそうな声を上げている。

「いやー、朝からいいもんが見れたなぁ」

「あぁ、あの真由美ちゃんが、あんなところを見せてくれるとは思わなかったからな。
 しかも、男子が15人もいるところで!」

「これも、あゆみちゃんのおかげだな」

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