第102章


 みんなでピクニックに行った土曜日の翌日、日曜日。
 由紀たちは、学園敷地内にあるショッピングモールまで出かけることにした。

 学園内のショッピングモールは、敷地から外に出ることのできない生徒たちの娯楽と憩いの場である。
 それは、普通の「売店」とは異なり、小さいながらも、ひとつのおしゃれな街として機能している。
 コンビニエンスストアから、おしゃれなカジュアルファッションショップ、アクセサリーや小物、ファーストフードにレストランまでそろっており、そこら辺の駅前よりも華やかなぐらいの規模を誇っている。
 きれいに敷かれたモザイク模様の通りにモダンな店構え、その雰囲気を求めて休日にこのショッピングモールを訪れる女子生徒は比較的多い。
 由紀たちも、その仲間だった。
 特に、今回は転校して間もない由紀に、このエリアを案内することが主な目的でもあった。

「わー、すっごーい!
 学校の敷地の中に、こんなのがあるんだ!」

 由紀は、目の前に広がる華やかなアーケードを潜り抜けながら、感嘆の声を上げていた。

「そうよ、わたしたち卒業までここから出られないでしょ。
 だから、せめてもの息抜きと、必要なものをそろえるために、こんなところも用意されているの」

 希は、ちょっと得意げにこのアーケードを紹介していた。

「あれ・・・、でも、わたしお小遣いあんまり持っていないよ。
 学費や生活費はかからないっていうから、ここに来たんだもん・・・。
 こんなにお店があっても、買えないよ」

 由紀は、ちょっと残念そうな表情でつぶやいた。
 そう、由紀は両親を失い、お金に困ってこの破廉恥きわまりない学園への転入を決意したのである。
 親戚の家を出るときに、ある程度のお金はもらってきていたが、それも両親代わりのおじおばが精一杯の思いで由紀にくれたものである。
 無駄遣いするわけにもいかない。

「あ、お金ならきょうは、わたしたちが代わりに出してあげるよ。
 由紀ちゃんの転入祝いみたいなものだし、それにお金は、毎月学校から支給されることになっているから。
 由紀ちゃんも、今月からもらえるはずだよ」

 真由美は、そう言って由紀の手を取る。

「まあ・・・、そのお金をもらうのも、ちょっと・・・・・・アレなんだけどね・・・」

 希は、頭をかきながら、苦笑いをして、そうつぶやいた。

「そのことは、きょうはわすれましょう。
 せめて、きょうぐらいは、由紀さんに楽しんでもらわないと」

 瑞穂は、ちょっと頬を赤らめながらも、そう言って由紀にお店に入るように勧める。

「そうだね、きょうはいっぱい楽しもう!」

 綾もそれに続いて由紀の手を取って、ショッピングモールの奥へと引っ張っていった。

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 聖女学園では、女子生徒に対して毎月小遣いが支給されている。
 小遣いの額は、学園での成績や生活態度などで多少の変化があるが、その小遣い受け取りの方法は、学園内口座に対する自動振込みであり、現金はATMで受け取ることになっている。
 そのATMでは、個人の認証として生体認証方式が必要になるのだが、聖女学園で用いられているATMには、指紋認証や静脈認証などとは似て非なる認証方式、すなわち陰核認証方式が採用されている。
 これは、ATMに設置されたセンサ部に自分のクリトリスを押し当て、そのクリトリスの特徴によって、個人認証を行うものである。
 認証には、約10秒ほどの時間を要し、その間、クリトリスをセンサに押し当てつづけなければならないことと、認証精度向上のために、微弱な静電気をクリトリスを印加するため、若干の刺激を伴うことが主な特徴となっている。
 学園の女子生徒たちは、月に一度支給される小遣いの中から、毎月、寮公共費を支払うことを義務付けられているため、月に一度は必ずその方法で引き落とし、また支払いとして振込みを実施することが義務付けられている。
 振込みの際にも個人認証が求められ、少女たちは何度もクリトリスをセンサに当てがい、微弱な電気による刺激に耐えなければならない。
 また、中には実家などへの仕送りをしている女子生徒もいるが、その場合も同様の認証方法がとられるため、引き落とし、振込みといった手続きの間、何度もクリトリスをセンサに押し当てることになる。
 
 希たちが、今手にしているお金は、すべてこの方法で引き落とした小遣いなのであった。

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 ショッピングモールの中には、多数の店が軒を連ねている。
 店の中では、学園の職員もしくは、学園を卒業したOGがスタッフとして働いている。
 そんな華やかな雰囲気のショップの間を、由紀たちは蝶が花々に立ち寄るように、ウィンドウショッピングを楽しんでいった。

 そして、小さなアクセサリーを買って、お昼にファーストフードのハンバーガーショップで小休止と食事をとっていた少女たちのところに、たまたま通りかかった亜紀子が声をかけた。

「あら、あなたたちもお買い物?」

「あ、亜紀子先生、こんんちわ」

 瑞穂が最初に気づいてあいさつすると、ほかの子たちも、それにならってあいさつをする。

「先生も買い物ですか?」

 希が、亜紀子に問い掛けると、亜紀子はうなずきながら答えた。

「そうよ、先生も買い物。
 ちょっと、先月、スーツを一着台なしにしちゃったから」

「あ、そういえば・・・・・・」

 何やら思い当たる節のある綾が、思い出しながら、ちょっと顔を赤らめる。
 一体、どんなことをしてスーツを台なしにしたのか、想像もつかない由紀だったが、それを聞くのはためらわれた。

「それに、きょうはこの後、お店のシフトが入っているの」

 亜紀子は、はにかみながらそう言った。
 このショッピングモールでは、教職員もときどき店のスタッフとしてシフトが組まれている。
 大半のスタッフは店専属、もしくは教職につかない職員である場合が多いが、週末で授業がないときには、教職員も入れ替わりでスタッフとして勤めることがあるのである。

「先生、きょうはどこのお店ですか?
 もしよかったら、これから買い物に行きますよ」

 真由美の問いかけに、亜紀子は苦笑を浮かべるような表情をつくって答えた。

「あなたたちが来るようなお店じゃないわ。
 きょうは、ボトムレス喫茶のウェイトレスよ」

「ボ・・・、ボトムレス・・・喫茶・・・・・・」

 希は、その言葉に息を詰まらせた。
 そう、教職員が店員として入る店には、通常の商品を扱う店の場合だけではなく、ちょっとエッチなサービスをメインとして行う店への勤務もあるのである。
 そして、亜紀子はきょう、その勤務シフトが組まれていたのだった。
 このような風俗店では、主に男子生徒へのサービスが行われる。
 普段、教壇に立つ女性教師たちは、その授業中には男子たちに淫らな姿を晒すことは少ない。
 そんな教師たちのあられもない姿を、このような形で、ときどき男子生徒たちの目に触れさせるのである。

 そして、きょう亜紀子が勤務するというボトムレス喫茶も、そのひとつであった。
 文字通り、ウェイトレスは全員ボトムレス、すなわち下半身裸でのサービスとなる。
 普段スカートに隠されている女性教師のお尻を、股間を、男子生徒たちが堂々と見ることのできる機会のひとつであった。
 このボトムレス喫茶では、通常のコーヒーや紅茶といったメニューの提供がほとんどであるが、中には数少ないものの特別メニューが用意されている。
 かなりの高額を要するサービスであり、注文する生徒も少ないが、人気メニューのひとつでもある。

「きょうは、特別メニューの注文を受けなければいいのだけれど・・・・・・」

 亜紀子は、小さく溜め息をつきながら、そうつぶやいた。
 亜紀子にとっても、特別メニューのサービスには、かなりの抵抗と羞恥心とを感じるのだった。

 そうして、少女たちに手を振りながら歩き去っていく亜紀子の後ろ姿を、由紀たちは言葉もなく見送ったのだった。


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