寮に戻って自室にたどり着いた由紀たちは、ようやく服を身につけることができた。
もちろん、下着も身に着け、普段着になる。
そうして、一息ついたところで、由紀が希に小さな声で問いかけた。
「ねぇ、土曜日って、いつもこうなの?」
素朴だが切実な質問。
「・・・うん、そう・・・・・・なんだ。
土曜日の放課後は、わたしたち女子はみんな、学校の制服と体操服を全部クリーニングに出す決まりになっているの。
制服も1着しか持っていないから、それを出しちゃうと、学校で着るものはなくなっちゃう。
だから、土曜日の放課後は、みんな、・・・その・・・裸で帰ってこなくちゃならないのよ・・・」
希の答えに、やっぱり・・・という諦めの気持ちが広がっていく。
「それに、男子たちも、直に女子の裸を見るチャンスだって思っているから、・・・きょうみたいに・・・・・・なるの。
毎週のことなんだけどね・・・。
男子たちも、イベントごと以外で、女の子の裸を直接見られるいい機会だって言って、群がってくるし・・・・・・。
ホント・・・・・・恥ずかしいよね」
「・・・・・・うん」
部屋の中に、ちょっと沈んだ空気が流れる。
それを打ち消すように、希が明るい声を出した。
「でも!」
「・・・ぇっ」
「でも、今からあしたまでは自由時間だよ!
1週間にたったの1日半だけど、あのエッチな制服を着なくてもいいし、学校にも行かなくていい、自由な週末!
あんな、いやらしいことなんて忘れて、楽しもっ!」
「う・・・うん・・・うん!
そうだね、せっかくの休みだもんね」
気持ちが沈んでいた由紀も、希につられて少し明るさを取り戻した。
「そうと決まれば、こんなに天気がいいんだもの!
みんなで外に出ようよ。
お弁当もってさ!
学校の敷地の外に出ることはできないけど、うちの学校の庭はすっごく綺麗なんだよ。
ちょっとした小山もあるし。
クラスのみんなで、楽しく遊ぼうよ!
由紀ちゃん、ここに来てから、まだ外に出たことってないでしょ。
学校のことも男子のことも、みーんな忘れて、ピクニックしよっ!」
希はそう言うと、ほかのクラスメイトを誘いに部屋の外へと出ていった。
そして、10分ほどして部屋に戻ってくると、手にしたバスケットを見せて、
「ほら、食堂に言って、特別にきょうのお昼はお弁当にしてもらったからさっ!
さぁ、行こう!」
と言って、由紀の手を取っておもてに繰り出したのだった。
ロビーには、既にほかのクラスメイトの女の子たちが待っていた。
そして、5人の少女たちは、さっき寮に入ってきた姿とは打って変わって、いかにもかわいらしく初々しい普段着で、外に出ていったのだった。
聖女学園の敷地は広い。
郊外とはいえ、これほどの土地を占有している学園は、他に類を見ないであろう。
小さな山までもが、その敷地の中に入っているのである。
小山には、池や小川までがあり、きれいに管理が行き届いたその景色は、そのまま絵葉書のスナップになってもいいほどであった。
通学路からちょっと離れれば、そんな自然に満ち溢れた風景が広がっているのである。
「うわー、すごーーーい。
きれーい!」
初めて見るその景色に、心の底から感動する由紀。
「どうですか?
結構きれいなところでしょう」
由紀のとなりを歩く瑞穂が、微笑みながら由紀に言う。
「うん、うん。
こんなきれいなところがあるなんて、知らなかった」
その言葉に、真由美も入ってくる。
「学校では、あんなエッチなことばっかりだもんね。
学校の規則も、男子も最低だけど、この景色だけは最高なんだ」
その言葉に、みんな同感と相槌を打つ。
そして、少し開けた草原に着いたところで、少女たちはお弁当を広げて、少し遅い昼食を楽しんだ。
食事中は、学校でのいやらしい話も、男子たちのエッチなイタズラの話も一切なし。
少女たちは、普通の少女らしくお互いに打ち解けながら、楽しく笑いながら食事を口に運んではおしゃべりに講じていた。
食べ終わった後も、特に何をするでもなく、野原で思い思いにくつろぎながら、おしゃべりしたりじゃれあったり。
そこには、つい1時間ほど前まで羞恥の極みを味わっていた少女たちとは思えないような、自然な笑みと笑い声が広がっていた。
そして、楽しいときは瞬く間に過ぎ去り、日も傾いてきたころ、少女たちは帰途に着いた。
寮への帰り道を歩きながら、由紀は一人思っていた。
(こんな、変わった学校だけど・・・・・・このみんなとなら、きっと乗り越えていける。
いつも、わたしを助けてくれる希ちゃん。
ちっちゃくてかわいらしい綾ちゃん。
清楚で優しい瑞穂ちゃん。
元気で心強い真由美ちゃん。
わたし・・・みんなと頑張る・・・・・・いつか・・・、ここを卒業する日まで・・・)
由紀は、クラスメイトたち4人の背中を見詰めながら、静かな決意を秘めたのだった。