由紀が放課後の掃除で恥辱にまみれようとしているころ、希は職員室に向かっていた。
廊下の三角棒を渡り、職員室の扉を開ける。
そして、職員室にいる、担任の玲子のもとへと進んでいった。
希が玲子のそばで立ち止まると、玲子は既に待っていたかのようにさっと振り向いて口を開いた。
「紺野先生から聞きました。
授業中に男子生徒に口答えしたみたいね」
「・・・・・はい・・・・。
でも、それは男子が由紀ちゃんに・・・」
「理由をきいているわけではありません」
玲子の問い掛けに訳を言おうとした希の声は、続く玲子の冷酷な言葉によって止められた。
「うちの学園の、授業中の規則は覚えているわね」
「・・・・・」
「2年生の佐藤さんが知らないわけはないわよね。
その決まりを破ったらどうなるかも、もちろん知っているわよね」
「・・・・はい・・・・」
淡々と告げる玲子の言葉に、希はただ、うつむきながらうなずくことしかできなかった。
そして、玲子は手元の書類を見ながら、淡々と続けた。
「報告によれば、佐藤さんは、授業中に校則で認められた正当な行為を実施中の男子生徒に対して、正当な理由なく異議を唱え、抗議したそうね。
さらに、教師である紺野先生の注意に口答えをし、かつ、その発言を制するよう指示した勧告を無視して、さらに抗議を続けた。
紺野先生は、抗議を続けようとする佐藤さんの注意を喚起するために、椅子のバイブレーターを動作させ、授業終了まで、その処置を継続した・・・・・・。
紺野先生からは、このように報告を受けています」
希は、玲子が書類を読み上げる声をうつむきながら聞いていた。
男子が正当な行為を実施していた・・・・・・、正当な理由なく異議を唱えた・・・・・・など、普通であれば納得できないような説明であるが、この学園では、これが通用してしまう。
しかし、さらに続けられた報告に、希は目を大きく見開いた。
「また、佐藤さんに抗議を受けた男子生徒2名からは、佐藤さんからいわれのない批判、暴言を向けられ、耐えがたいほどの精神的苦痛を受けた。
さらに、授業中に幾度となく学習を妨害され、かつ仕返しとして、その後の給食の時間に、食器をわざと取り上げられて食事を妨げられたあげくに、休み時間には報復として、暴力を振るわれたという報告も上がっています」
「そ、そんなのうそっ!
わたし、そんなことしていない!
でっち上げだわ!!」
希は、その男子生徒からの嘘偽りだらけの報告に、驚き、そして大きな声で否定した。
男子が精神的苦痛を受けたなどというのは、あり得ない嘘であり、学習を妨害したなどという覚えもない。
食器をアソコに突き刺してきたのは男子生徒の方で、暴力などというのは、一切身に覚えのない明らかなでっち上げである。
「静かに!
先ほども言ったように、あなたの弁明を聞いているわけではありません。
そういう報告が届いていることを言っているのです」
「・・・・・・で、でも・・・・・・そんな・・・・・・」
なおも、言葉を続けようとする希に対して、玲子は厳しい視線を向け、静かに告げた。
「あなたの今の態度だけでも、十分に懲罰に値します。
教師や生徒からの報告や告発に対して、謙虚な態度で反省の姿勢で臨むのではなく、疑惑と反抗から口答えするなどというのは、余りにも躾がなっていないと言わざるを得ません。
火のないところに煙は立たないというわ。
そのような告発が生徒から出てくるということ自体が問題と言えるわね。
紺野先生の証言から見ても、あなたが規則違反をしたのは明らかです。
その点から考えて、男子生徒からの報告の内容も、あり得ない話ではないと言えます。
今のように、教師である私にすら反抗的な態度を取るのですから、そのような態度を男子生徒にしなかったという保証はないわね。
したがって、私は、あなたの今の態度そのものが、男子生徒からの報告の内容を裏付けるものと判断されてしかるべきと考えます。
もし仮に、男子生徒からの告発が偽りであり、そのような事実がなかったのだとしても、そもそも、そのような告発をなされるあなたの態度そのものに問題があったと見るべきです」
そこまで言って、軽く息を吸うと、玲子は淡々と、しかしはっきりと、
「佐藤さん、あなたには、男子生徒の正当な行為に対する抗議行動、教師への反抗的態度および行動、さらに男子生徒への精神的苦痛の強要と就学妨害、不利益供与と暴力行為、これらに対する反省を課すこととします」
と宣言したのだった。
「・・・・・・・・・・・・」
希はもはや何も言うことはできなかった。
この学園では、男子生徒からの告発は、よほどのことがない限り、ほとんど受け入れられ、かつ女子生徒の言い分は聞き入れられることがない。
これまでの学園生活の中で既に知っていた事実であるが、改めて目の前に突きつけられると、愕然としてしまうのだった。
「それでは、佐藤希さん、あなたには2日間の反省室入りを命じます。
反抗的な態度と暴力事件・・・本来は、4日間の反省室入りに相当するほどの違反量ですが、同室の水野さんが、まだ学園生活、寮生活に慣れていないため、長期の拘束は水野さんの生活に支障をきたすと考え、反省期間を短縮しました。
ただし、反省の姿勢が足りないと判断した場合には、即座に反省期間を延長しますので、そのつもりで。
いいわね?」
「・・・・・・・・・・・・」
「返事は?」
「・・・・・・・・・・・・・はい・・・」
希は、しばらく言葉に詰まっていたが、なんとか返事を返した。
こうして、希はいわれのない理不尽な罪さえもかぶらされて、罰を受けることになったのだった。
「佐藤さん、あなた2年生になってから反省室に入るのは初めてね」
「え・・・あ、はい」
「そう・・・えーっと・・・1年生のときには4回入っているわね」
玲子は、机の上にあるパソコンを見ながら希の過去の反省室入りの記録を確認する。
希は、その言葉に顔を赤くして視線を反らした。
それは、希にとって思い出したくもないほど、恥ずかしく、そして屈辱的な経験だった。
そして、またその反省室に入ることになったのである。
玲子は顔を赤らめている希を気にかけるふうでもなく、パソコンを操作しなながら、小声で呟きつつキーボードを操作する。
「今回の違反は・・・・と・・・・・それから、2年生は・・・・・これと・・・これもね・・・・・」
そうして、操作が終わると、その内容をプリントアウトして希に見せた。
「これが、今回の反省リストよ。
今回はこれに従って、反省すること。
いいわね」
「・・・は・・・い・・・」
希は、そのリストを受け取り、内容に目を通した瞬間、目を大きく見開いた。
「えっ・・・・こ、こんなっ・・・・・」
「何か質問はある?」
「・・・あ・・・・い・・・いえ・・・・あ、ありま・・・せん」
なおも冷静に問い掛ける玲子に、希は、そう答えることしかできなかった。
かつて、ここで反論して、それを理由にさらに罰則を追加された経験もある。
今ここで、何かを言うことはできなかった。
「反省期間を短縮する以上、その分、内容を厳しくして反省を促すのは当然のことよ。
これでも、今年に入ってから初めての反省室入りということで、多少の配慮はしたつもりです。
先ほどの行為や態度からかんがみても、これでも、まだ軽い方と言えるわよ。
それでは、さっそくこれから、反省室に向かってください。
寮長には私から連絡しておきます」
「・・・はい・・」
「それじゃあ、もういいわよ。
2日後、反省期間が終わったらまたここに来ること。
いいわね」
「・・・はい・・」
希は、職員室を後にした。
これから、希の羞恥地獄とも言うべき反省室生活が始まるのだった。
反省室・・・それは、聖女学園において違反をした女子生徒が、反省するために入る部屋で、寮の一角に設置されている。
その中は、通常の学園、および寮生活以上に、破廉恥で恥辱にまみれた生活を強いられる空間である。
1度この反省室に入った少女は、もう2度とこの部屋に訪れることを望まない。
また、この反省室においては、入る女子生徒の学年や違反の度合い等により、規制事項が増減する。
それは、主に教師の裁量による。
今回の希の反省リストに書かれた規制事項は以下のとおりであった。
○一般項目