第1章
水野由紀は朝早い時間に、一人、道を歩いていた。
由紀は現在13歳。中学2年生である。
その容姿は、一見して誰もがかわいいと思うであろう。
髪をショートボブに切りそろえ、目は大きく、くりくりしている。
身体はちょっと小柄で、胸の膨らみもまだ少ないが、わずかに女の身体へと成長をはじめたばかりという感じで、初々しい。
きょうはかわいらしい、真っ白なワンピースを着て、学校への道を歩いていた。
そう、彼女は今、新しい学校へ行く途中なのである。
今日は、ゴールデンウィーク開けの月曜日。
なぜ、こんな時期に新しい学校へ向かっているのかといえば、4月の中ごろに、両親を事故でなくしてしまい、今まで通っていた私立中学校には通うことができなくなってしまったのである。
由紀は親戚の家にあずけられることになったが、そこの家庭も、家計が苦しく、満足に学校に通わせるだけのお金がなかった。
そんなとき、どこから聞きつけたのか、「聖女学園」というところから、入学案内が届いた
−−保護者へと、本人への2通に分かれて。
この学園はとある山奥にあり、全寮制で3年間一切学園外に出ることができないという奇異な学校だった。
しかし、さらに特別なことがあった。
学費が一切無料なのである。
この学園は女子の入学に際しては、学費を免除しているのだった。
保護者となった由紀の親戚たちは、この一言に引かれた。
自分たちでさえ食べていくのが大変な中、とても、由紀を満足に学校に通わせることはかなわない。
ここへ来て、舞い込んだうれしい知らせに、一も二もなく由紀に入学することを勧めた。
しかも、教育方針の中に「理想的な女性を育てる」という文句があることも引き金となった。
しかし、保護者に入学案内が届いたのと時を同じくして、由紀のもとへも一通の入学案内が届いていた。
そこには、保護者用パンフレットには書かれていない、聖女学園の実態の一端が書かれていた。
「聖女学園」の実態は「性女学園」。
つまり、「理想的な女性を育てる」ということは、男性にとって、まさに理想的な女性を作り出すということなのである。
本人用の案内には、まるで奴隷契約書とでも言えるような内容の署名欄があった。
性的な知識の著しく乏しい由紀にとっても、それが恥ずかしい内容であり、決して、納得できるものではないということはわかった。
しかし、今の保護者の経済的事情もそれ以上に知っており、迷惑はかけられないという、生来の性格のため、この学園の学費無料という、この唯一の利点のみをこの際利用することにしたのだった。
こうして、保護者は何も知らないままに、本人はその一端を知りつつも、それを隠しつつ、由紀はこの聖女学園に入学することになったのである。
由紀はこのようないきさつを心に浮かべ、沈んだ気持ちになりながら、自分の新しい生活の場である聖女学園へと向かっていた。
「仕方ないよね、あの家にずっとお世話になるわけにはいかないんだもん。
今度の学校には寮があるし、誰にも迷惑をかけないですむもんね」
そう、自分に言い聞かせながら電車を乗り継ぎ、聖女学園の校門の前に到着した。
門は、まるでそびえたつように高く、まるで、刑務所か何かのようである。
そんな巨大な建造物が、山の真中にぽつんと立っているのである。
卒業するまでは、ここから出ることはできない。
一度入ってしまえば、もう、どうなろうとも、出てくることはできないのだ。
由紀は、つばをゴクリと飲みこんで、自分を励ましながら、門の横についている呼び出しボタンを押した。
しばらくして、ボタンの脇から、声がした。
「水野由紀さんですね。聖女学園へようこそ。
どうぞお入りください」
とてもやさしげな女性の声が聞こえて、門が自動的にゆっくりと開いていった。
由紀は、ちょっとためらいつつも、意を決したように手をギュっとにぎりしめて、校門の中へと入っていった。ここから、由紀の聖女学園での生活が始まったのである。