2人の足は止まり乃梨香の表情がグッと強張る。
「あっ乃梨香ちゃんと亜美ちゃんじゃん」
「ホントだこんな時間に珍しいな」
2人の男子生徒。
それも同じクラスの席の近い生徒。
いわば普段カモにされている存在であり、乃梨香の拒否反応は当然であった。
男子生徒はジロジロと2人を見つめるとさも当たり前のように言葉を発する。
「亜美ちゃんのスカートの中がみたいなぁ」
言葉に一瞬ビクリと動く亜美。
しかしその数秒後に手はスカートへと向かう。
「そうそう。
今日は亜美ちゃんのパンツ見てないからね。
毎日チェックしないと」
クスクス笑いながら亜美に命令を出す男子生徒。
スカートを掴んだ亜美の手は腰元まで上がり、真っ白な下着が生徒の視線に映る。
「何だ白かよ。
つまんないなぁ」
「ここ最近毎日白だよね? 亜美ちゃん」
亜美の勇気にも浴びせられるのは罵声。
そして亜美もごめんなさいと非礼を詫びる。
この繰り返しが男子生徒をさらに優位に立たせる。
「謝っても仕方ないじゃん。
どうしようか?」
「そうだ!
ここでお漏らししてパンツを黄色く染めてよ」
ポケットから取り出したのはローター。
亜美にそれを投げると言葉を続ける。
「おしっこが出ないなら、出るまでここでオナニーしてよ。
お漏らしパンツ見るまで僕たち帰らないから」
「あはは。
そうだね、そうしよう。
よろしくね亜美ちゃん」
2人は腕を組み亜美の出方を待つ。
結果がわかっているからこその笑顔であり余裕。
「――分かりました」
亜美がスカートのファスナーに手を付けたとき、乃梨香の手がかかった。
「亜美、やらなくていいよ」
乃梨香による制止の言葉。
それは通常学園ではありえないことである。
男子生徒も不意の展開に声を荒げる。
「僕達は亜美ちゃんに言ってるんだよ」
「そうだ。
乃梨香ちゃんは帰っていいよ」
立腹する男子生徒。
普段から亜美ばかりを標的にしているため、こういった場面は滅多に起こらない。
しかし、その当然の展開を打ち破る乃梨香の言葉は続く。
「まだ私の特例の時間は終わっていないはずよ。
私たちに声をかけないで」
男子生徒の背後、うっすらと残る日は完全に落ちきってはいない。
乃梨香の特例の効力が切れるまでまだ10分程度はあるだろう。
特例は絶対。
ほんの今だけ男子より上の力を持つ乃梨香は無論亜美を助けることができる。
「特例って……。
そうかだから2人で」
「くそっ。
もう少しで日が落ちるのに……」
亜美の手を取り早々歩き出す乃梨香。
権限の効力か男子生徒も止める手立てが見つからない。
「これ以上亜美ばかり付け狙わないで。
卑怯な上に最低よ」
普段のストレスを撒くかのような捨て台詞を吐き、男子生徒の前を横切る2人。
年に数回と見られないだろう、女子生徒が勝つ形での日没はその数分後に訪れた。
数日後。
乃梨香はあまりにあっさりと反省室行きを通達される。
もちろん特権を活用できない時間であったし、理由は男子生徒の適当な作り話。
先日の男子生徒2人を筆頭に乃梨香の数日間に及ぶ反省室は始まった。
文章:橘ちかげさん
加筆・修正:ロック