罰則期間 希編
〜2〜



 翌週の登校時間。
 いつもより数十分早く寮を出ることになった希に待っていたのは、他の生徒からの視線であった。
 多くの視線を集めている理由は、只でさえ異質な学園の制服を更に逸する格好をしていたからだ。
 週末にかけて女子生徒達が全裸で下校する姿は度々目撃できるものの今日は平日。希以外の女子生徒は、僅かながらでも自らの秘部を隠す布を纏っている。
 しかし、今の希はその程度のミニスカートや奥の下着すら身に着けていない。
 季節は未だ春先ではあるものの、朝方の冷たい風はじわじわと体温を奪っていくようである。
 そしてそれをさらに異質に見せるのは腰から上の上半身である。
 真っ裸の下半身とは反対に、上半分のセーラー服はしっかりと着用している。
 それはある程度裸を見慣れてしまっている男子生徒達の視線を、改めて希の下半身を凝視させるには抜群の効果を持っていた。
「希ちゃん、何で下は何も着けてないの?」
「あぁそう言えば、先週寮でおねしょしたって――」
 横を行く男子生徒達の声に顔を真っ赤にさせる希であったが、丸見えの秘部を手で隠すことはできない。
 グッと握る拳は腰に添えられていた――

 
「それでは佐藤希さん、今日から2日間の罰則期間に入ります」
 今朝の希は校則よりも1時間早い起床になった。
 前日に突然「明日から罰則」と聞かされた希に心地よい睡眠はできなかったようで、うすら欠伸の中、別室へと連れ出された。
 そこは女子寮の中にある個室。
 あまり広くはなく、誰かが寝泊りしている生活観もない。
「先生、ここは?」
 未だ寝ぼけ眼な希に、罰則の緊張感はない。
 質問をする余裕がそれを如実に表していた。
「ここは女子寮の倉庫になるわね。
 もっとも、使用する機会なんて年に数回もないけれど」
 玲子は説明する間もなく希へと視線を向け、これからの通告をする。
「まず登校時間は、この拘束具を装着して登校してもらいます」
 倉庫の奥から取り出したそれは、普段目にする手足だけの拘束具の比ではない、腰から脚下までをガッチリと固定する特殊な物であった。
「あまり時間もありませんので、抵抗せずに言うことを聞いてくださいね」
 あまり感情の起伏の感じられない玲子の言葉に、希の心は徐々に罰則の緊張に包まれていく。
「制服は上半身のみ着用してください。
 下半身は下着の着用も認められません」
「それでは拘束具を装着します。
 背筋を伸ばして動かないで下さいね」
「少し窮屈に感じるかもしれませんが、時間が解決しますので安心して下さい」
 たった数分ではあったものの、希は一切口を開くことはなかった。
 ただ玲子の指示通りに動くだけで、罰則仕様の身体ができ上がっていく。
「はいでき上がり。
 今日の登校時間はこの格好で過ごしていただきます」
 それは背筋の矯正器具に似ていると希は感じた。
 背中に張り付くように伸びる棒状の固定具が、希の背筋をピンと伸ばす。
 後ろからのアングルだと、骨折した際のあて木を背中に添えているようにも見える。
「……ん」
「先ほども言ったけど、はじめは少し窮屈でしょうが、慣れれば恐らく姿勢もよくなるわ」
 窮屈の原因は伸びる姿勢のほかに、もう1つあった。
 1点に拘束された拳である。
 ちょうど腰の後ろの辺りで拳を固定されているために、手を振り歩くことなどはできない。 
 さらに下半身は膝と足元を拘束され、常にがに股で歩く形になっている。
 おそらくこの拘束によって動かせるのは、肩から上の上半身。
 そしてハの時に広げられた脚をヨチヨチと動かす行為くらいである。
「それでは次に、振動具を挿入します」
「振動具……」
 予想はしていたものの、玲子が取り出したモノを見て希の不安はさらに大きくなる。
 それは棒状ではなく楕円の形状をしている。
 卵程度の大きさだろうか、玲子が少し力を入れるだけでプニプニと形を変える程柔らかいその振動具。
 たっぷりの円滑剤を塗り、希の秘部にあてがっていく。
「んんっ…」
 自らの意思は既に抵抗を諦めているものの、身体は言うことを聞かない。
 普段入れることのないような少し大きめのバイブに、ヒクヒクと膣を動かす希。
「ふふっ……、最初に手足を拘束しておいて正解だったようね」 
 膣に押し戻されるバイブを押し込んでいく玲子。
 数度の格闘の後やがて、
「――んひっ!」
 ヌポンと音を出して勢いよく飛び込んだバイブ。
 希の腰がヒクリと動く。
 希の膣穴に程よい形と大きさをもったバイブは、注入時でさえ快感を覚える程の絶妙に装飾された表面のツブがある。  
 元々膣が小さい希に入れられたバイブは完全に膣内で密着し、いくら腹筋に力を入れようとも動く気配すらない。
「安心して。
 すぐに動くなんてことはないから」
 希の考えを見透かしたのか、玲子は言葉を放ちつつ作業を進める。
 次はクリトリスの器具である。
 行事の際などに装着しているクリトリスのリングとは少し違う。
 装着する行程はあまり変わらないのだが、装着後にわかる違和感が希にはあった。
(これも動くのかな……)
 そう疑問を感じたのは、快感を感じ取ることができなかったからである。
 いつもであれば、締め付けるようにクリトリスを包む淫具に脅えるのだが、今回はそれがない。
 ただ乗せただけ。
 そう思える程に何も感じないのだが、普段のリングより体積も重さも大きい。
「これで全て完了よ。
 少し時間が早いけど、ただ今より罰則期間を開始します」
 それだけを言い残すと、何の説明もなく部屋を去っていく玲子。
 遅刻は罰則の上乗せと通達されている希は、早々と学校へと向かった。
 
   
 まるで機械のように歩く希は、教室までの道程を1人で歩いていく。 
  もちろん、この格好で普段通りの生活を送ることは不可能であることは希、自身十分に理解できる。
 やはり膣内でピッタリと密着したバイブは、歩いた程度では抜けそうにはなく、歩くたび微妙な快感が希を襲う。
 生徒の淫らな視線はあるものの、膣内のバイブは振動することはなく、すんなりと学園の廊下まで辿り着いた。
 教室まで残り20メートル程度だろうか。
 そこには、ずらりと並んだクラスメートたちがいた。
 拘束具は、登校から教室までである。
 恐らく、ここで何かがあるのであろう。
 直感で希はそう感じた。
「希ちゃん先週おねしょしたんだってね?
 この間、反省室に行ったばかりなのに大変だねぇ」
「…………」
 普段は口答えの1つでもする希であるが、今現在の格好では何の説得力もないのを理解してか、終始無言である。
「そのがに股の拘束具は僕たちが作ったんだよ。
 もちろん中に入ってるバイブもね」
 どおりで、通学中にバイブが振動しないはずだ。
 玲子が何も言わなかったことも自然と理解できた。
「そう……。
 それじゃああんたたちが、スイッチを持ってるってことね」
 キッと睨みつける姿も、男子には滑稽にしか見えない。
「そんな格好じゃ、他の生徒にも悪戯されちゃうからね。
 今回は僕たちクラスメイトだけが、罰則を与えられるように玲子先生に相談したんだよ」
 罰則までの一週間の期間はこのくだらない装置の製作期間か。
 希は理解した。
「くだらない……。
 早く教室に行きたいからどいて」
 危険を察してか、少し強引に歩を進めようとする希。 
「おっとダメだよ。
 希ちゃんには、ここで楽しんでもらうんだから」
 そう言いつつ、男子生徒たちはポケットに手を入れる。
「いい加減、ただのリモコンバイブじゃ楽しくないからね。
 今回は特別仕様だよ――」
 そう言うと男子生徒達は一斉に何かを取り出した。
――カチリ
 ペンライトだ。
 光を絞っているのだろう。
 周りを大きく照らすのではなく、レーザーポインタのように数ミリの円の光である。
 スイッチを入れ、十数人が一斉に光の矢を希へと向ける。
(な、何なのよ気持ち悪い……)
 希の身体には、男子生徒のペンライトの光が当てられている。
 照らし続ければ、赤いほくろにも見えるような光が、希の身体の上を動き回る。
「な、何をする気……」
 仕組みを理解できない希。
「さぁ? 何でしょう」
 とぼけたように、ただペンライトを向けるだけの男子生徒。
(大丈夫……、教室まで歩けば終わりなんだから)
 歩を進ながら、ペンライトを動かす男子生徒を必死に目で追っていた瞬間だった。
 ビクン――
「んんっ……!」
 突然の振動に、思わず吐息を漏らす希。
 しかし、その振動は一瞬で止まる。
(い、いきなり振動が……)
 希は男子生徒を見る。
 しかし、目の前で誰かがスイッチを動かしている素振りはない。
 ただ希に向かって、ペンライトを振りかざすだけである。
 そしてもう1つの違和感。
 同時に動くと思い込んでいたクリトリスの装置が、一切動かないのである。
 ビク――ビクン――
「んくぅぅ……」
 今度は連続で振動する。
 突然の振動には慣れているものの、挿入されたバイブは希の想像を超える快感を与える。
 ただニヤニヤと光を向けるだけの男子生徒たち達。
 しかし、確実にバイブは意図的に動いている。
(まるで何かに反応してるみたい……ってまさか!)
 数回の振動の後、希はようやくその仕組みを理解した。 
「気持ちいいでしょ?
 それは希ちゃんの身体の資料を貰って作った、特注のバイブなんだ」
「もう気づいていると思うけど、スイッチはこのペンライト。
 光の先が受信機に触れると作動する」
 言葉を紡ぎながら、動かすペンライトの光がある一点へ向けられる。
「くうっっっ……」
 それは希の予想通りであった。
 凝縮された1点の光は、違和感感じたクリトリスへ向けられる。
 そして振動を始めるバイブ。 
「一方的に振動させるだけじゃ面白くないからね。
 希ちゃんにも、避けるチャンスをあげたかったんだ」
 確かに自由に動ける身であれば、かわすのは容易いかもしれない。
 しかし、がに股に拘束された脚、クリトリスに付けられた受信機。
 避ける術は、かろうじて動く腰だけである。
「沢山の光が触れるほど強く動くから、頑張って避けてね」
 こうして、たった数十メートルの闘いが始まった。
「そ、そんな……んんっ……」
 クリトリスに当てられた光が、始まりの合図。
「そうだな――ゴールは希ちゃんが席に到着するまでにしようか?」
 希にとってはあまりに理不尽なルールである。
「くそっ……くそっ……」
 おそらく10以上はあるだろう光の照準。
 ふらふらと股間の周りを煽るような動きもあれば、狙いであるクリトリスに絞った動きもある。
 当然ながら、脚を進めなければこの恥辱は終わらない。
 しかし、あまりに多くの狙いに、希は立ち止まり、必死に身体を動かすだけである。
 もちろん、その照準を避けるための腰を振る行為が、どれだけ淫らに映っているのかも、希は理解できていない。
 男子生徒はニヤニヤとその動きを鑑賞し、まれに振動するバイブに耐える希を言葉で詰めていく。
「早くしないと授業始まっちゃうよ?」
「歩かないなんて、そんなに罰則強化されたいの?」
 男子生徒の言葉に希はただ快感の声を漏らすしかなかった。


文章:橘ちかげさん


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