学習塾は危険がいっぱい
第2章:迫り来る恐怖の中で



 コンコン…

 算数の授業がこつこつと進む。
 机の上を走る鉛筆とシャーペンの音がコンコンとハーモニーを奏でていた。
 どうやら授業の後半に小テストを取り入れたらしい。
 講師は前でのんびりと座って終わるのを待っている。

「うーん…結構難しいかも…」

 焦る恵里菜。
 たとえ小テストであろうと、納得のいかない結果は残したくない。
 そのため、どうもうまく解けない問題が多くてイライラしているように見える。
 あまり得意でない算数だけに、恵里菜にとって不利なのかもしれないが……。

 恵里菜の性格上
―――小テストなんかにどうしてそんなにムキになるの?―――
 という言葉が出てきそうだが、これは自分との闘いのため、どうしてかムキになっている自分がいる。
 自分が納得いかないことは許されない性格をしているため、大変なことである。

 ガタン…

 講師が立ち上がる。

「よーし! そろそろ終わるぞー!
 えんぴつ置けよー」

 男性講師の声が大きく響き渡った。

「よし! そこまで!
 後ろから前に回してくれ」

 テスト用紙が集められていく。
 苦虫を噛んだ顔をして恵里菜も前に回す。
 どうも納得のいくデキではなかったようである。
 恵里菜は顔に出るからすぐにわかる。
 ある意味正直者なのかもしれない。

「じゃあ、ちょっと早いけど休憩にするぞ!
 長休憩にさらにおまけだ!
 みんな小テスト頑張ったからな!」

「やったー!!」
「さすが先生!話がわかる!」
「先生だいすきー!」

 普通より6分ほど早く授業を切り上げた講師に、大歓声が沸き起こった。
 次の1時間休憩がさらに長くなるからみんな大喜び。
 みんな席を立ち上がり、それぞれ休憩に向かう。

 この付近は結構コンビニや商店街などがあり、暇つぶしはいくらでもできる。

 夜遅くまでなので、ほとんどの生徒たちは近くの店に買出しに出かける。
 ザワザワと音を立てて休憩に入った教室を、一人たたずを飲んで見つめる清掃員一人。

 島崎である。

 島崎の手には、熊用強烈下剤が入った小さな包み紙が握られている。
 その見つめる先は…「恵里菜」だった。
 恵里菜はさっきの算数のデキが納得いっていなかったようで、参考書を見直していた。

(くそ!恵里菜ちゃんも買出しで外に出ろよ!)

 見つからないように覗きながら島崎が舌打ちする。

 すると恵里菜の元に友人達がかけよってきた。

「ねえスミちゃん!
 あたしたちも買出しに行こうよ!」
「そうよ。まだ夜の10時まであるし、途中の晩御飯タイムもあるし」
「暗い中、買い物行きたくないしぃ」

「うーん…」

「もー!!
 終わったことより次のこと早く考えようよ!
 スミちゃん」

(よーし! がんばれ友達!!
 恵里菜ちゃんを外に連れ出してくれ!)

 島崎は必死で祈った。

「わかったよー。
 んじゃ行こっか!」

 ガタンっ!

 島崎の待ち望んでいた瞬間だ。
 恵里菜は立ち上がり、友達に連れられて外に出た。
 恵里菜が教室を出て階段を降りて見えなくなるのを確認して島崎は教室へと入る。

(いってらっしゃ〜い!イヒヒ)

 この30人ほど収容できる、それほど広くない教室。
 あと真面目そうな男の子と気の弱そうな男の子の二人だけが教室に残っている。

(ちっ、二人だけゴミが残ってやがる。
 まあいいか、みつからないように…)

 島崎はガランとした教室を掃除しはじめた。
 ごく自然な風景なので、残っている二人の男の子はそれほど関心なく自分の作業を続けている。
 ちょうどよいことに、二人の男の子のやや斜め後ろに恵里菜の席があるため、
 この男の子二人が振り返らない限り、ばれることはない。

(よし。
 そのままずっと集中していろ、ばか)

 すっと机を拭く振りをしながら、恵里菜の机の横にかけられたかばんに手をやる。
 そしておもむろに水筒の蓋を取りはずし、水筒の口を大きく開けた。
 すぐさま例の包み紙を破って入れようとする。

 すると…

 ガヤガヤ…

(うわ! 帰ってきやがった!)

 第一陣が帰ってくる声が聞こえた。
 慌てた島崎。すばやく震える手で包み紙の中身…熊用強烈下剤を水筒の中へ。
 サラサラと中に入れようとするが、ほとんど外に散らばってしまった。

(くそっ!!)

 小さな包み紙半分も入っただろうか?
 少しでも入っただろうか??
 なんだかほとんど外にこぼれてしまったように思うが、みつかったら元も子もない。
 できるだけきれいに付近を掃除してすぐさま水筒に蓋をする。
 恵里菜のかばんがちょっとだけ白い粉で汚れてしまった。
 黒なので結構目立つ。
 島崎はすばやく持っていた湿った雑巾でできるだけ拭いた。
 まあそれなりにきれいにできた。
 気づかれなければいいが…。

「すげーぞ! さっきのムシキング!
 一発で決めたんだぜ!」
「おー!! これから俺もこのカードで行くぜ!!」
「いいなー! 今度僕にもそのカード貸して!」
「いやだよ! 自分で手に入れてこそ価値があるものなんだ」

(ちっ…男のガキどもか!
 うるせーな……。
 まあいい。
 それなりに強烈下剤が入っただろうし、作戦はほぼ成功だろう。
 あとは効き目だな)

 そういうと島崎は掃除道具をまとめて、教室を後にする。
 そして廊下を掃除する振りをしながら恵里菜の帰りを待つ。
 まだ休憩は45分以上も残っている。

「あー! いっぱい買っちゃった!!」
「あんた、そんなにいっぱい食べられるの?」
「いいでしょ別に。
 お菓子は別腹なのよ!
 ね♪ スミちゃん!」

「…いいんじゃない?
 本人が納得して買ったんだから」

 恵里菜一同おかえり。

 …相変わらず現実主義というか、冷めているというか。
 友人共々引きまくり。
 けど、性格は悪くないため嫌われてはいないようだ。
 ただ、初対面では、あんまり良い顔されないだろう。

 一同、友達の席へ集まる。

「ねえねえ!
 これさ、この前佐賀のおばあちゃんところに海水浴行ったんだ!
 そんときに買ってきたおみやげ!」
「えー! いいなー。
 見せて見せて!!」
「どんなのー?」
「じゃーん!!」

 そういって恵里菜の友人が出したのは「大福餅」だった。

「やだー♪ おいしそう!」
「一個ちょうだい!!」
「私も!!」

 思わず恵里菜もほしがる。
 甘いものには目がない。

「いいよー!
 みんなに食べてもらうために買ってきたんだもん」
「わーい!!
 いただきまーす!!」

 一部の場所で大歓声。
 別に休憩時間なのでお菓子などを食べるのは許されている。
 それをたたずを飲んで見守る島崎。

「まんじゅうか?
 恵里菜ちゃんも食べるみたいだな…」

 掃除する振りを忘れ、恵里菜がまんじゅうをほうばる姿に見入っていると…

「おい! いつまでここを掃除してるんだ!
 次は3Fのトイレじゃないのか!?」

 男性講師が島崎を怒鳴る。

 一瞬静まり返り、そそくさと島崎は3Fへと移動する。
 ただ、恵里菜があの下剤入りのお茶を飲むところを確認できないのが心残りである。

「やだ…あの清掃員よ。
 このまえジロジロとあたしの足見てた」

 友人が島崎のことを話し出す。

「そうよねぇ。
 あたしもトイレ入るまでジーっと見られたもん」
「友達が見たって言うんだけどさ、この前自転車のサドル舐めてたらしいよ」
「やだー!!」

 そして恵里菜も話し出す。

「あたしも、毎日挨拶される。
 キモイったらありゃしない!」
「えー!
 あいつに話し掛けられるの!?
 キショー!」
「モチ、完璧しかとだかんね。
 当たり前じゃん」

 恵里菜も日頃のうっぷんを晴らすかのように友達と談話。
 それにしても島崎の悪い噂っぷりは、少しかわいそうな感じがする。

 女性特有のいじめらしい、一人の悪をいたぶる怖いいじめ。
 これはどこの社会にでも存在する環境であろう、小学生と言えども怖く感じる。

 井戸端会議よろしく、恵里菜と友達同士の談話が終わり、休憩も残り少なくなった。
 恵里菜は席に戻る。

「あれ?」

 机の上がなぜか私のだけぬれてる。
 まあ掃除したからだろうと、それほど関心は沸かなかった。

「さっきの大福おいしかった♪
 甘〜いのがなんとも♪」

 恵里菜は大福の味を思い出し、よろこびにふけっている。
 ある意味、これが恵里菜の至福の喜びなのだろう。

「なんだか喉が渇いちゃったな。
 大福食べたし♪」

 恵里菜が水筒に手をかける。
 その水筒の中に「強烈熊用下剤」が混入しているなんて当然知らない。
 何も知らない恵里菜。
 水筒の蓋を開ける。

「この水筒、結構保温効果抜群ね!
 ピンクでかわいいし!」

 蓋にお茶を注ぎ、口を近づける。
 そして一口、お茶を飲んだ。
 すると、なぜか渋い顔をする恵里菜。

「何? なんだかすごく苦い!!
 お母さんお茶っ葉の量間違えたな!」

 おそらく下剤特有の苦味だったのか、本当にお茶っ葉の量が違ってたのか。
 恵里菜は変な味を感じた。
 果たして島崎の投入した下剤は恵里菜の体内に無事(?)入っただろうか?
 残念ながら、飲んだ姿を島崎は確認することができなかったが、飲むであろうという確信はあった。
 やはり、まんじゅう…いやいや大福餅みたいな甘いものを食べたら喉が渇くだろうから。

 島崎は恵里菜が強烈熊用下剤入りお茶を「飲んだ」こととし、次の作戦に移っていた。

キーンコーン…

 授業始まりのチャイムがなる。
 次の授業は理科。
 今回は女講師が担当する。

「さあ、みんな席に着いてね。
 参考書出して準備して」

 テキパキと準備が行われる中、恵里菜に異変が起こっていた。

 グルルルゥゥ…

「!?あん! やだ…!!!」

 突然腹痛に襲われる恵里菜。
 それも今までに感じたことがないくらい強烈な痛み!
 ゆーっくりと熱いものが腸をたどっていくのが感じ取れるくらい強烈。

「…痛い……。
 お腹が痛いよ…」

 恵里菜はうつむき、額には脂汗が滲み出している。
 顔色は青白くなって本当に苦しそう。
 ただ、強烈な便意が遠くから津波のように迫ってくるのだけははっきりわかる。

 …どうやら島崎の投入した下剤の効果であろう。

「どうしよう…。
 どうしたらいいんだろう…」

 意外と恥ずかしがりやなのか、恵里菜は学校や塾のトイレで「大」を足さない。
 どうしてだろうか、小学生は「大」を学校でするのを嫌がる子が多い。
 恵里菜もその一人である。
 ただ、今回はこれまでに感じたことがないくらい異常な痛み。
 さすがの恵里菜も考えた。

 …今回だけは苦しすぎる!!

「…あの、先生!!」
「どうしたの? 角田さん」
「…ちょっとおトイレに行ってもいいですか?」
「さっき、長い休憩だったじゃない。
 どうして行ってなかったの?」
「…」

 年頃の女の子にとって、結構屈辱な言葉のやりとり。
 女の講師にとっては、そんな思想なんて考えていないだろう。
 大人の女から見れば、恵里菜なんて小学生の幼女レベルにしか見えない。
 ロリコン島崎から見た恵里菜は、立派なレディーに見えるのだろうが…。

 …そんなことより、今それどころじゃない!

「…おねがい先生!
 ちょっと我慢できないんです!」
「わかったわ、いっておいで。
 その代わりすぐに帰ってくるのよ。
 今日は大事な…」

 ガタン!

 言うが早いか、恵里菜は一目散に走り出す。
 それが強烈な便意のためなのか、恥ずかしさのためなのか。

「ウンコかよ!角田!!」
「ウンコウンコ!!」

 くだらないことを男子が言う。

「うるさいわね!」

 ものすごい剣幕で恵里菜が目を真っ赤にして言い返した。
 さすがの冗談じみた男子も、恵里菜の迫力に凍り付いてしまった。
 そして恵里菜は大急ぎで教室を出た。

「何よいったい…どうしてこんなにお腹が痛いのよ…」
「さっきの大福かなぁ…いや、それならあの子達も同じようになるはず…」
「…やっぱ、変な味がしたお茶か…腐ってたのかな…そんなことはないはず…」

 腹痛を必死で我慢しながら自問自答する恵里菜。
 とにかく今はトイレにいかなければならない。
 そして2Fのトイレに駆け込もうとすると…

「えっ…?」

 女子トイレの入り口扉には「故障中」の文字が。
 男子トイレは開いているが、年頃、しかも恵里菜の性格がそれを許さない。

 一瞬たじろいだが、強烈に襲い掛かる便意は恵里菜を待ってはくれない!

「だめだ!考えてる暇なんてない!!3F行こ!!」

 エレベータなんて待っていては間に合わないかもしれない。
 下半身を運動するのは気が引けるけれど、急がないと大変なことになる。
 大急ぎで階段を駆け上がる恵里菜。
 ミニスカートがヒラヒラとなびく。
 下着が見えたかもしれないけど、そんなこと気にしてる暇なんてない!

 ドタドタッ!!

 猛スピードで3Fの女子トイレへと向かう。
 そして入り口には…

「清掃中」

 黄色い立て札が立てられている。
 別に使用できないというわけではないからいいや!
 …と少し考える。

「清掃って…まさかあのおっさんじゃないの…??」

 恵里菜の予想は大当たり。
 駆け込んだ女子トイレの中に、毎日声をかけてくる不潔なおっさん…島崎がいた。
 そして汚らしい顔でニヤニヤと恵里菜を見る。
 恵里菜は思わず叫んだ。

「ここは女子トイレよ!
 出ていってよ!」

 島崎を追い出しにかかる。

「何いってんだい? お嬢ちゃん。
 入り口の立て看板が見えなかったのかい?」
「うるさいわね!
 早く出て行ってよ!!」

 もう恵里菜の下半身はガクガク震えてもはや限界を迎えようとしていた。

「ところで、どうして授業中にここにいるのかな?
 授業中、教室外にいるのは禁止じゃないのか?」
「…!!」

 恵里菜は固まった。

「…えらく必死だけど、どうしたのかな〜?
 ウンコしたいのかなぁ〜?」

 島崎はいやらしい言葉を発しながら恵里菜に近づく。

「掃除してるから、ほかのところでしてもらえるかなぁ…」

 さらに島崎は言うが…。
 実は他のトイレをすべて「故障中」表示にして 使用可能なのはここだけにしているという事実を知りながらの嫌がらせなのだが。

 …これが島崎の第二作戦なのである。

「他のトイレはみんな故障中だったのよ!
 早く出てって!!」

 必死なのか、恵里菜はものすごい剣幕でまくし立てる。

「いいのかい?
 そんな偉そうな態度をとっても…ウンコさせてあげないよ。
 お嬢ちゃん」

 汚い言葉を恥ずかしげなく発する島崎。
 その言葉に凍りつく恵里菜。
 今は絶体絶命の危機。
 この男に従うしかない。

「お願い…出て行って……」
「相当限界なんだね恵里菜ちゃん」
「…!!」

 こんなこ汚いおっさんに「恵里菜ちゃん」と呼ばれたことに悪寒が走った。
 なぜだかわからないがものすごく腹が立つ!
 なんでこんなやつが私の名前を知ってるのか?
 しかも気安く呼ばれる筋合いなんてないし!
 そんな驚く恵里菜に、島崎は続ける。

「恵里菜ちゃん…お腹痛いでしょ?
 実はね、恵里菜ちゃんのお茶にこれを入れたんだよ」

 島崎は小さい包み紙を恵里菜にチラチラ見せる。

「…???」

 恵里菜は訳がわからないといった感じで島崎を見る。
 もうそれどころではないのだが…。
 さらに島崎は続ける。

「これはね、強力な下剤なんだ。
 恵里菜ちゃんが苦しいのはこのせいなんだよ〜」

 ニヤニヤしながら嬉しそうに島崎は語る。

 そこで恵里菜は自分がはめられた事実を知る。
 衝撃である。
 しかもこんな奴に…。
 悔しくて涙が出てきた。

「…出てって…」

 涙目で島崎をにらみながら弱々しく言った。
 もう強烈な便意のせいか、恵里菜の力強さはまったくなくなっていた。

「へいへい、わかりました〜。
 ではごゆっくり♪
 恵里菜ちゃん」

 やけに潔く引き下がった島崎。
 この無意味な会話で時間を稼いで、恵里菜の便意をギリギリまで持ってくるのも作戦。

 これが第三作戦…成功。

 島崎は外に出て、ドアの隙間から恵里菜の様子をニヤニヤしながら観察し始めた。
 お尻とお腹を押さえながらよろよろと奥に歩いていく恵里菜。
 とても苦しそうである。
 ちょっとでもショックがあったらもれてしまうかも知れない。
 島崎に触れられなかっただけでも助かった。

 奥に進む恵里菜。
 この3Fのトイレは3つある。
 そのうち2つは洋式。
 そして1つは和式である。
 恵里菜は現代っ子からか、和式は絶対使わない。
 ほとんど洋式でしか用を足したことがない。
 そしてトイレの扉を見ると、なんと洋式2つは「故障中」となっている!!

 これも島崎の仕業なのか!?

 仕方がなく、一番奥の和式トイレの扉に向かう。
 …が。
 なんと、和式トイレの扉の前に、沢山の掃除道具が放置されていた。
 これらをどけないと、トイレに入れない!!

「そんな…」

 この汚い掃除道具をどけてほしいと島崎に頼まなければならないのか?
 それとも一つ一つ自力でどけるのか…?

 考え込む恵里菜。
 しかしどんどん迫り来る便意は恵里菜を待ってはくれない!
 
 グルルル…

「くふぅ…だめぇ。。。」

 体全体を震わさんばかりの鼓動が、恵里菜の腸内から発せられる。

 このまま考え込み、ゴールを目前にしておもらししてしまうわけにはいかない。
 考えるよりも便意を我慢する方が勝っている今、先に行動が出る。

 恵里菜は決心する。

 恵里菜はこの小汚い掃除道具に体当たりを仕掛けてふっとばす決断をする。
 もし、掃除道具がびくともせず、逆に恵里菜がはじき返されてしまったら…。
 その時はそのショックで我慢している大便をその場にぶちまけてしまうかもしれない。
 けれどここでやらなければ、その場で果ててしまう。

 待っているのは確実なゼロだ。

(よーし。
 仕方がない!)

 そう心の中で叫ぶと、恵里菜は後ろに下がり助走をつける。
 そして積み重なる掃除道具に向かって体当たりをしかけた。

「えーい!!」

 ドンッ!!
 ガッシャ−ン!!!

 ものすごい音がトイレ内に響き渡る。
 見事な恵里菜のショルダータックル。
 汚い道具は扉の前から飛び散るように分散した。
 追い詰められた恵里菜から出た、普段の冷静な恵里菜らしくない豪快な行動。
 思ったように事が進み、心の中で安堵する。

 大きな音にびっくりした島崎。
 確認するとさらにその恵里菜の行動に驚く。
 島崎は、恵里菜がこの積み重なる道具の前で絶望し、
 涙ながらに島崎にどけてほしいと懇願するか、扉の前で果てるかと予想していたのだ。
 懇願されたときのシナリオまできっちり考えていたのに残念。
 お腹をくすぐったりしていじめてやろうかと企んでいたのだ。

 第四作戦…失敗!

 扉の前の道具をどけた恵里菜。
 速攻で扉を開けて、中に滑り込んだ。
 その様子を見て、島崎は不敵な笑みを浮かべる。

 まだなんか企んでいるのだろうか?
 その不敵な笑みが意味するものは……。

(3章へ続く)



文章:なるびさん



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