Skinny-dip middle school
〜第1話 182人の子供たち〜


 関東某所。

 緑豊かな自然に恵まれた標高1000メートルほどの通称剛三山はそのすべてが私有地である。
 オーナーは山枝剛三、66歳。
 戦後の混乱時に、機を見るに敏であった剛三は一介の八百屋から瞬く間に財を成した。
 そのやり方は半ば強引とも言えたが、混乱が収まり、戦後復興の波に会社経営をうまく乗せた後は人情的な配慮をもってその埋め合わせをし、そして表舞台から姿を消した。

 剛三はずっと考えていたことがあった。
 それは自分の理想郷を作り上げることだった。
 その夢のためだけに妻も娶らず50年間働き続けたのだ。
 そして自分の寿命と、その理想郷を作り上げ、自分が天命を全うするまで維持するための費用を算出した。
 その費用と財産がぴたりと一致したのが60歳のときだった。
 そして社長の座を惜しげもなく明け渡し、莫大な財産と一握りの腹心の部下だけを連れて私有地である剛三山に移り住んだ。

 1代で八百屋から全国屈指のスーパーマーケットチェーンを作り上げた剛三に会長職への慰留を望む声も多かったが、剛三は頑としてそれを受け入れなかった。

 剛三が連れてきた部下たちは優秀な社員ではなかったが、それぞれ特技を持っていた。
 医師免許を持っているものもいれば教員免許を持っているものもいた。
 重機の扱いに長けているもの、調理師免許を持っているもの、さまざまである。
 

 剛三は66歳という高齢には似つかわしくないほど、足腰もしっかりしていた。
 山の中腹にある豪邸を後にすると、一本道を歩き始めた。その先には高い塀で囲まれた施設?学校があった。

 校門をくぐると中学生とおぼしき生徒たちが口々に挨拶をしていく。
 剛三は目を細めて一人一人の名前を呼びながら応えた。

「おはようございます、校長先生」
「うん、おはよう、恵」
「おはようございます」
「おはよう、雄介」

 生徒たちはみな、快活で明るく、山枝に好意を持っているようだった。
 どこにでもあるような中学校の風景なのかもしれない。
 ただ一つ、生徒の中に時折全裸の少女がいることを除けば。

 ・・・・・・・・・・・・・・

「気をつけ!
 これから全校朝礼を始めます。
 一同、礼」

 運動場に集められた全校生徒182人を前に、女教師栗原春香が号令を発する。
 剛三は教師席から立ち上がり、生徒を眺めた。
 男子生徒101人、女子生徒81人。
 男子生徒はみな、詰襟の制服に身を包んでいるが、女子生徒は73人が紺のブレザーだった。
 あとの8人はソックスとスニーカーしか身に着けていなかった。
 8人はぽつりぽつりと他の制服を着ている生徒たちに混じって立っている。
 周りの生徒もそれを自然に受け入れているように見えた。

「ラジオ体操!各クラスの日直は前に出て」

 1学年2クラスのこの学校には各クラスに男女1名ずつ、計12人の日直がいる計算になる。
 その日直の中に一人、全裸の少女がいた。
 1年2組の山枝直子だった。
 子供のように小さなお尻。
 幅はないが、頂は高く、お尻と太ももをはっきりと分けている。
 直子は列の前に走り出て振り返った。
 男子生徒全員の視線が直子に注がれていた。
 まだ薄い乳房。そのかすかなふくらみはなだらかに小さな乳首へとつながっている。
 乳暈の色さえ薄い。
 贅肉のない腹部は少女特有の丸みにやや欠け、筋肉の筋がかすかに見て取れる。
 その分、下腹部のスリットは深く切れ込み、一本の陰毛すらない股間で強く自己主張していた。
 直子は反射的に左手で股間の辺りを、右手でまだ薄い乳房を隠し、そして真っ赤な顔でうつむいた。
 うつむくと左手の陰にぷっくりとした恥丘が見え、それがさらに恥ずかしさを大きくさせた。
 男子生徒たちははっとしたように視線を泳がせた。

(いけない、あたしったら・・・)

 直子はおずおずと両手を横に下ろした。
 まだ顔のほてりは治まらない。
 横をそむいたままぐっと手を握り締める。

「直子さん、大丈夫?」

 声をかけたのは栗原だった。

「す、すいません。
 大丈夫です」
「無理しなくていいのよ。
 今日の日直の中では全裸はあなただけだものね。
 恥ずかしかったらジャケットを羽織っても・・・」
「いえ、大丈夫です。
 すいません」

 直子は栗原の申し出を辞退したばかりか、無理をして笑顔まで作ってみせた。
 そして剛三の方をちらりと見やると大丈夫、とばかりにピースサインをした。
 剛三は深くうなずくと満足げに微笑んだ。

(これこそがワシが望んだ理想郷だ・・・。
 金で人の心は買えぬ)

 直子は全校生徒の前で全裸を披露していることを忘れようとするかのように、一心不乱にラジオ体操に打ち込んだ。
 すらりと長い手足を伸ばし、ジャンプし、そして体を反らした。
 ジャンプをしても乳房はほとんど揺れない。
 体を反らせば細い太ももの付け根に一本のスリットがお尻の割れ目までつながっているのが見えた。
 たかが体操とはいえ、真面目にやれば汗をかく。
 終わったころには心地よい疲労感があった。
 上気した体を風がなでる。

(気持ちいい・・・)

 深呼吸をしながら軽く目を閉じる。

(みんな、あたしの裸見てるのかなぁ)

 股間にぞくぞくっとした感覚があった。
 目を開けると男子生徒たちは直子を思いやってか、あからさまに見る者は誰もいなかった。
 ただ、どうしても気になるのかちらちらと目をやる者はいる。
 ぼーっと視点の合わない目で直子の無毛の股間を見ているものもいた。
 直子がわざと股間を手で隠すと、はっとしたように我に返り、恥ずかしそうにうつむいた。

 直子はちょっと嬉しくなった。
 いつもそうだ。
 最初はものすごく恥ずかしいのに、ちょっとしたきっかけで全然気にならなくなってしまう。
 そして、逆に自分を見てどぎまぎしている男の子たちをからかいたくなってくるのだ。

 直子たちが列に戻ると、剛三が朝礼台に立った。

「みんな、おはよう。
 今日はスキニー・ディッパーについて話をしよう。
 スキニー・ディップとは子供が遊びに夢中になっているうちに服を脱いでしまい、素っ裸で遊びまわることを言う。
 また、そうする人のことをスキニー・ディッパーと言うわけじゃな。
 子供は純真じゃ。
 裸で遊びまわることが楽しいことを本能的に知っておる。
 それが大人になるにつれて羞恥心や、人にどう思われるか、といったことに悩まされ、裸で遊びまわることを楽しいと思う心を邪魔されるようになる。
 これは非常に悲しいことじゃ。
 人の目を気にして、自分の本能さえ捻じ曲げてしまうんじゃからな。
 じゃが、それも最初だけじゃ。
 本能の力は強い。
 実際に裸になってしまえばその気持ちよさに気づくのはすぐじゃ」

 直子は大きくうなずいた。

「わしはみんなにその気持ちを忘れないでもらいたい。
 人のことを気にして、自分を失わないでほしい。
 女子生徒に2週間に1度、全裸になってもらうのもそのためじゃ。
 そうして自分の本能に気づいたら、毎日全裸でもかまわん。
 生徒手帳の校則第4条を読んでみたまえ。
 『校内では体育・部活などを除き、別に定める制服および下着以外のものを着用してはならない』とある。
 つまり、着用しない分にはなんら問題はないというわけじゃ。
 卒業のころまでには全員、全裸で登校するようになることをワシは祈っておるよ」

 朝礼台を降りた剛三に栗原が耳打ちした。

「ああおっしゃってましたけど、どうして男子生徒には全裸デーがないんですか」
「そりゃあ、あの年頃じゃ。
 異性の裸に興味もあろうし、体が反応してしまうこともあるじゃろう。
 自分の裸で勃起しているのを見たら、女の子は裸になんかなりたくなくなるじゃろ」
「なるほど・・・。
 おみそれしました」

 栗原は感心した。
 正確には男子生徒に全裸を強要しない理由をあらかじめ準備していたその周到さに、だ。
 栗原は30社以上の企業に就職活動をしたものの、すべて書類選考で落とされていた。
 そんな折、ダメ元で受けた剛三の会社に拾われたのだ。
 その合格理由が自分がもっていた中学教員免許と、都会の生活に馴染めない性格のせいだと気づいたのはずっと後のことだった。

 剛三の用意周到さはこの学校設立計画にも表れていた。
 このような学校を運営していたら保護者から問題にされることは目に見えている。
 しかし、学校が開校してから2年半、そのような問題は一度も発生しなかったし、今後もないだろう。

 なぜなら、この学校の生徒はすべて剛三の養子だからだ。


文章:めんたい60 さん


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