その検体は、一昨日、ストック・ヤードの手配でメディカル・センターに身を委ねられていた。
当日は、ひどい錯乱状態だったその少女も24時間の薬物鎮静によって落ち着きを取り戻していた。
「ワタシは、一体幾度生まれ変るの?…」
薄れゆく意識の中で…MP-7241は、自らに問いかけていた。
少女の長いまつ毛に宿った涙のしずくが、どこかしら大人びた陰りを見せていた。
MP-7241を乗せたストレッチャー・カプセルは、速やかに動き出すと、
幾層もの、外部遮断ゲートをくぐり抜け建物の奥深くへと消えて行った。
シールド体制レベル4のメディカル・ルーム内では、白衣のワーク・スーツのスタッフが
黙々と今日運び込まれた検体MP-7241のレストワードを進め始めていた。
例え、どのような趣味・趣向の痕跡が残された検体に接しても、たじろぐスタッフ達ではない。
また、そのような訓練と確かな技術を備えた者たちのワーク・チームであった。
明るいオペ・ライトに照らされた若い女性の検体は、全身麻酔の深い眠りの中にあった。
オゾン殺菌の完全無菌液バイオノールで洗浄された検体は、うぶ毛の残る幼い少女の身体を見せていた。
加虐趣味の元にあったのだろうか、幼き少女に刻まれた全身の新旧の傷跡が生々しい、
すでに治癒した痣痕や、或いは血の滲んだような新しい傷創も入り混じって痛々しかった。
それらの外部傷創は、予め登録され培養されていたクローン皮膚の移植と組織蘇生技術で治療される。
乳首や女性器に施された欠損痕(針、クリップ噛)なども、丁寧に形成修復が施されるのだった。
「ヤメテ〜、もうイヤ、イヤーー、たすけて…」
全身麻酔の深い眠りの少女の口から、うわ言のような小さな叫びが洩れた。
誰も見知らぬ秘密の世界で、少女が受けた死よりも残酷な光景がその脳裏を駆け抜けた。
だが、スタッフ達は、眉ひとつ動くことも無く作業の手は戸惑う事なく続けられた。
やがて、苦しげに眉を寄せていた少女の表情が安らかな眠りの顔に変っていった。
幼く、清純な天使のように眠る少女MP-7241は、今どんな夢を見ているのだろうか。
返品や下取りの為に再びここへ戻って来た女体は徹底的にメンテナンスが施される。
その後、仮死状態を保つ人工冬眠装置内において、その肉体は時を超えて保存されるのだ。
そして、検体保護カプセルの中で、MP-7241に2週間の静かな時間が流れていった。
・処女膜再生及び恥毛繁茂→95%完了
・身体外側部微傷痕の復元→98%完了
・身体内部各粘膜損傷復元→77%治療継続中
やがて、メディカル・モニター・コムは検体MP-7241の全ての記憶を消去した…。
文章:めぐみ さん