裏アルバム編集委員会特設掲示板

〜晒される少女たちの秘密〜


 その事件は、ある夏の日の朝に起こった……。

 校内の廊下の一角に、人だかりができている。
 その人だかりからは、うれしそうな叫び声や笑い声、ときおり悲鳴や泣き声といった、騒がしい喧騒が聞こえてくる。
 ぼくは、何が起こっているのかわからないままに、その人だかりへと吸い寄せられていった。
 人の山をかき分けて、人だかりの一番前まで到達する。
 そして、その人だかりの原因を目にしたとき、信じられないような驚きにめまいを感じながらも……、心の奥から湧き上がる歓喜に満ち溢れていた。

 6年生の教室が並ぶ廊下の一角……たしか、そこの壁には大きな掲示板があったと思う。
 普段は、学校行事の案内や意味のない標語みたいなものが貼り出されていて、特に注目を浴びることはない。
 少なくとも、きのうまではそうだった。
 でも、今その掲示板のあった場所には、そんな毒にも薬にもならない掲示物とはまるでかけ離れたものが存在していた。
 それは、まるでショーウィンドウのように、厳重に管理されているかのようなガラスカバーがついた掲示板だった。
 当然、普通の掲示板にはそんなガラスカバーはついていない。
 それは、ぼくらとその掲示板との接触を隔てる障壁のようにも見える。
 そして、そのガラスの向こう側……掲示板には、「裏アルバム編集委員会 特設掲示板」というタイトルとともに、数枚の写真が貼り出されていた。
 
 写真一枚一枚は、まるでポスターみたいに大きくて、少し離れた僕の位置からでもはっきりと見ることができる。

 ……それは、ぼくと同じ学年の6年生の女の子……それも、特にかわいいと評判の女の子たちの……あられもない姿を写した写真だった……。
 そこには、4人の女の子……いや、美少女の秘密の写真があった。 




 ぼくのクラスの学級委員長でもある坂井美咲ちゃん……、まじめで成績優秀な優等生。
 女子からは慕われていて頼りにされているけど、ぼくたち男子に対しては、なにかと口うるさい。
 ちょっと掃除をサボろうとしたり、自習時間におしゃべりをしていると、決まって先生みたいな口調で男子を注意してくるんだ。
 だから、かわいいけどいつも男子とは衝突している……。
 だけど、そんな感じだから特に気の弱い女の子にはものすごく頼りにされていて、いつも友達の相談に乗ったり、男子との間に入って女子を守ったりしている。
 そんな……女子のリーダーみたいな女の子だ。

 目の前の大きな掲示板に、そんな坂井美咲ちゃんの……美咲ちゃんの素っ裸の写真が、貼り出されていた。
 
委員長美咲ちゃんのフルヌード入浴シーン
 修学旅行の露天風呂で、盗撮に成功した委員長美咲ちゃんのワレメバッチリ入浴シーン!
 6年生にもなって、ほとんど膨らんでいないペッタンおっぱいに、毛も生えていないツルツルマンコ!
 いつも口やかましい委員長美咲ちゃんの女の子コンプレックスを、今ここに大公開!


 ぼくは、自分の目が信じられなかった。
 だって、それはいつもの学校では見ることができない、絶対にありえない光景だったから……。
  それは、どこかの露天風呂の中で撮った写真。
 それだけならどこで撮った写真かわからないかもしれないけど、ぼくらにははっきりとわかる。
 間違いなく、先月行った修学旅行の旅館にあった露天風呂だ。
 その露天風呂の中で、お湯につかろうとしてバスタオルをはずした瞬間……なのだろう。
 美咲ちゃんの女の子のすべてが露になった瞬間が、写真に写し撮られていた。
 完璧なまでの覗き……いや立派な盗撮写真だった。
 そこには、まだ膨らみも淡い小さなおっぱいと、まっすぐに一本の線が描かれたようなアソコの割れ目が、湯気に隠されることもなく、見事に写し出されていた。
 写真がポスター大であることもあって、まるで等身大の裸の美咲ちゃんが目の前にいるかのような錯覚さえ覚えてしまう。
 こ……これが、女の子の……いや、美咲ちゃんの……裸……。
 ぼくは、生まれてはじめて、女の子の裸というものを目にした。
 こ、こんな……こんなふうに……なって……い……いるん……だ……。
 いつも口うるさく注意してくる委員長の……美咲ちゃんの胸……アソコ……。
 興奮でぼくの心臓は、今にも破裂しそうなぐらい高鳴っている。
 クラスメイトの……しかも間違いなく美少女といっていい女の子の裸の写真があるんだから無理もない。
 ぼくは、しばらく美咲ちゃんの裸に……いや正確に言えばアソコの割れ目に目を奪われていた。  



 その隣には、城川沙羅さんの写真が貼られていた。
 城川さんとは、今年はじめて一緒のクラスになった。
 とにかく無口で無表情……ぼくはいまだに城川さんが笑ったり怒ったりしたところを見たことはないし、それにおしゃべりしているところも、ほとんど見たことがない。
 声を聞いたのも、授業中の発表のときと、プリントを渡したときの返事だけだ。
 そのどちらも、ものすごく素っ気のないものだったことを、はっきりと覚えている。
 いつも教室の自分の席に座って、ひとりで本を読んでいる……そんな姿しか、ぼくには思い出すことができなかった。

 そんな氷のような印象の女の子……城川さんが……ト、トイレでおしっこをしているところを撮った写真が、貼ってあった。
 

クールガール城川沙羅のトイレ放尿シーン
 無口&無表情なクールガール城川沙羅の放尿姿盗撮に成功。
 身にまとう雰囲気から排泄しないのではという噂すらあった城川。
 しかし彼女もおしっこをすることが判明。
 澄ました態度とは裏腹に、割れ目を伝ってお尻の下からおしっこが滴り落ちる滑稽な放尿スタイルがスタンダード。


 場所は多分学校のトイレ……女子トイレの個室の中……。
 写真の中の城川さんが学校の制服を着ているから、恐らく間違いないだろう。
 そのトイレの和式便器にしゃがみこんで、おしっこをしているところが、真正面から写っていた。
 もちろん、パンツは下ろしている……当たり前だ……。
 ……当たり前だ……けれども……、でも、そんな当たり前のことすら、ぼくには信じられない思いだったんだ……。
 だって……あ、あの……あの城川さんが、トイレでおしっこしているなんて……。
 ぼくは、そんなことはあるわけがないとわかっていながらも、城川さんっておしっことかウンチをしないんじゃないかと、半ば本気で思っていたんだ。
 そのぐらい、普段の城川さんは、ぼくらみたいなのとはかけ離れた、独特の雰囲気をまとっていたから……。
 でも、そんなことあるわけがない。
 城川さんだって、ぼくらと同じようにおしっこもするし……ウンチだって……多分……するんだ……。
 写真の中の城川さんのおしっこは、ただ便器に放たれているだけではなく、その一部が割れ目を伝って、お尻の方から滴り落ちている。
 写真の下のコメントを読むと、割れ目を汚すこのおしっこスタイルが、城川さんのスタンダードなのだと書かれている。
 あの城川さんが、おしっこをするたびにアソコをおしっこで汚している……そう思うとぼくは言いようのない興奮に包まれた。
 だって……だって、あの城川さんにそんな恥ずかしい秘密があったなんて……。
 もちろん、そのコメントが本当かどうかなんてわからない。
 でも、もしかしたら、この写真を撮った人は、毎日城川さんのトイレシーンを盗撮していて、その秘密を知っているのかもしれない。
 ぼくは、城川さんのアソコの割れ目から噴き出している水流と、その割れ目を伝ってお尻の方まで滴りながら雫を落としている水滴に、しばらくの間、目と心を奪われていた。 



 しばらく、呆然としていたのだろう……ふと我に返ったぼくの目に飛び込んできたのは、うちの学校のナンバーワンアイドル、双葉鈴華ちゃんの写真だった。
 去年、男子の間で非公式に行われた女子人気投票では、全学年通してダントツのトップになった鈴華ちゃん。
 恐らく、今年の連覇は確実だろうと噂されている。
 実は、ぼくの初恋の女の子なんだけど、そう思っている男子は、ぼくのクラスにだって10人以上もいる。
 そんな、ぼくの……いや男子の憧れの女の子、鈴華ちゃんが、あられもない格好で写真に写っていた。 
 
学校のアイドル鈴華ちゃんの透け透け水着
 プールの授業中、裏委員会で用意してこっそり交換した透撮用特殊水着を身に着けた学校一の美少女鈴華ちゃん。
 カメラのレンズ越しに小さな乳首も割れ目の縦スジもあらゆる恥部をバッチリ透撮。
 この水着で大股開きの平泳ぎをした鈴華ちゃんの股間写真も同時掲載。


 それは、うちの学校のプールサイドでの一枚。
 多分、先週の体育の授業のときのものだ。
 水着姿の鈴華ちゃんが、こっちを向いて写っている。
 その表情に、特に変わったところはない。
 恐らく、写真に撮られているということにすら気がついていないのだろう。
 でも、それはただ写真に撮られるだけにはとどまっていない。
 ……水着に隠されているはずの鈴華ちゃんの大事な部分が、水着越しにはっきりと透けて見えてしまっているのだから……。
 確かに、うちの学校の指定水着は競泳タイプで若干布地が薄めかもしれないけど、水に濡れたぐらいで透けて見えてしまうようなものじゃない。
 確か、この写真に写っている先週のプールの授業で見た鈴華ちゃんの水着姿は……それ自体が魅力的だったけど……、でも、特に透けて見えるとか、そういう嬉しい違和感はなかったはずだ。
 ぼくは、写真の下に貼られているコメントの文章を読んで、水着が透けて見える理由と、この「裏アルバム編集委員会」というものの綿密さ、周到さに戦慄を覚えた。
 なんと、こっそり鈴華ちゃんの水着をすり替えていたというのだ!
 普通に見るとただの水着……でも、カメラのレンズ越しに見ると、透けて見えてしまう特殊な水着に……。
 鈴華ちゃんは、先週、こんな水着を着てプールの授業に出て、泳いでいたというのか!
 水着を透かして、鈴華ちゃんの小振りな乳首と、かわいらしいアソコの割れ目が写真に写っている。
 さらに、鈴華ちゃんの写真にはもう一枚おまけの写真がついていた。
 この水着を着て泳いでいるときの写真だ。
 しかも、平泳ぎで大きく股を開いたところを後ろから……いや、股下からアップで写した一枚が。
 そこには、クッキリと縦に線が入った女の子のスジ割れと、そしてその上にひっそりと息づくお尻の穴……肛門がはっきりと写り込んでいた。
 ……鈴華ちゃんにもお尻の穴があるんだ……。
 それは、城川さんのおしっこと同様、ぼくにはどこか現実感を伴わない不思議な光景のように思えてならなかった。 
 



 最後の4人目に写っているのは、チアリーディング部の綾峰柚衣ちゃんだった。
 いつも元気いっぱいで駆け回っている印象の柚衣ちゃん。
 男子も女子も分け隔てなく、気さくに接していつも明るく笑っている……そんな女の子だ。
 チアリーディング部では副リーダーをやっているって言っていたっけ……。
 去年の運動会で見た柚衣ちゃんのチアリーディング姿は、今でも目に焼きついている。
 タンクトップにミニのスコート。
 スコートの下にはいているのはスパッツだったけど、スコートの裾が舞い上がるたびに、ぼくの心臓は止まりそうなほどの興奮と衝撃を受けていた。
 多分、あのときは全校の男子の視線が、柚衣ちゃんに……柚衣ちゃんの股間に釘付けだったんじゃないだろうか。 
 
チアリーダー柚衣ちゃんのお昼寝ヌード
 保健室で仮眠中のチアリーディング部柚衣ちゃんを、こっそり全裸に剥いて記念撮影してあげた!
 朝練で疲れたのか、胸も割れ目も剥き出しになっているのに、安らかな寝顔。
 いつも元気いっぱいの柚衣ちゃんのアソコは、剥き卵のようにツルツルの柔らかい割れ目ちゃん。


 そんな元気印がトレードマークのような柚衣ちゃんが……ぜ、全裸で寝ている姿が貼り出されていた。
 確かに、今までの3人の女の子も裸の写真、もしくはそれに匹敵する写真だったけれども、この写真は、これまでのものとは決定的に違う。
 これまでの写真は、盗撮の準備とか水着のすり替えだとか、用意は周到だったけれども、直接女の子にアクションを起こすようなものではなかった。
 でも、この柚衣ちゃんの写真は違う。
 保健室で仮眠を取っている柚衣ちゃんの衣服を脱がせ、パンツをずり下ろして大事な部分をさらけ出させている。
 それをやったのは、間違いなくこの「裏アルバム編集委員会」のメンバーだろう。
 この組織……一体どれだけのバックと行動力があるんだ……。
 ぼくは、心の底からこの委員会の奥深さに恐れを抱いた。
 ……それにしても……今までタンクトップやスコート、スパッツといった布で覆い隠されていた……そして何度もその奥を妄想した柚衣ちゃんのすべてが、いま目の前に広がっていた。
 あのピンクの乳首がタンクトップの向こう側に……あの柔らかそうな女の子の割れ目がスパッツの中に隠されていたんだ……。
 太ももまで中途半端に下ろされたパンツが、実に生々しい。
  今まで下着すら見たことがなかった柚衣ちゃんだったけど、一気に女の子の秘密の部分をすべて見てしまった……。  



 この4人の女の子……それも、うちの学年……いや学校内でもトップにランキングされる美少女たちのこんな……い、いやらしい写真が廊下の真ん中に貼り出されているなんて……信じられない。
 周りに集まっているみんなも、呆然としている人、大声で叫んでいる人といろいろいるけれども、皆、驚いているという点に関しては何一つ変わるところはない。
 でも、そんな好奇の目で見ているのは、もちろん男子だけだ。
 この掲示板を見た女子は、みんな驚いて悲鳴を上げた後に、顔を真っ赤にして逃げ出したり、泣き出したり、怒り出したり……。
 そりゃそうだ。
 こんな写真が公開されるなんて、女の子にとってみれば、死にたいほど恥ずかしいだろうし、人生が終わるほどの衝撃を受けることだろう。
 しかも、自分たちが知らないところでこんな写真がこっそり撮られているなんて……。
 ここに貼り出された4人の女の子たちの心情を思えば、単純な気持ちでいられるわけがない。

 それに、女子たちが受けた衝撃は、4人に対する同情や心配だけではないはずだ。
 ここに掲示されている写真は、間違いなく数ある写真の中から選んだものに違いない。
 盗撮したのが、この4人だけであるはずがないんだ。
  露天風呂やトイレに設置したカメラには、そこに入ったたくさんの女子の写真が写されているだろう。
 すり替えた水着だって、鈴華ちゃんのもの一着だけとは限らない。
 保健室で仮眠を取ったことのある女子も、たくさんいるに違いない。
 そんな、明日は我が身……いや、既に写真に収められている可能性の方が高いか……そういう不安が、女子の心に振りかかっているのだろう。

 そんな女子の姿を横目に見ながら、ぼくは、もう一度掲示板の方に視線を向けた。
 掲示板の上の方には、「裏児童会公認」とか「パイパン6年生女子特集」とか、いろいろな言葉が並んでいる。
 「裏児童会」って一体何なんだろう?
 普通の児童会とは別の組織なんだろうか?
 恐らくそうなんだろう……。
 本当の児童会がこんなことをするわけがない。
 ……ということは、この「裏アルバム編集委員会」っていうのは、その「裏児童会」傘下の委員会ということになるのかな?
 これだけのことをやってのけるんだから、そのメンバーがひとりやふたりなんていうことはないだろう。
 それに、かなりの権力と実行力を持っている……。
 ……でも……、本当にそんな組織あるのかな……。
 ちょっと信じられないけど、現に今、その非合法組織の活動の成果が目の前に見せ付けられている……。
 少なくとも、この写真を撮った人、そしてこの掲示板をここに設置した人は、どこかにいるっていうことだ。
 児童会っていう名前はついているけど、本当に生徒だけの集まりなのかな……。
 こんなこと、ぼくら子供たちだけでやってのけるとは、到底思えない。
 それから、「パイパン特集」っていう言葉も引っかかる。
 えーっと、確か「パイパン」って、アソコの毛が生えていない人のことを指すんだったっけ……。
 確かに、今ここに掲示されている4人の女の子のアソコは、ツルツルの無毛だ。
 みんな、きれいな割れ目が剥き出しになっている。
 これほど美しい亀裂なんて、この世のどこにもないんじゃないだろうか……。
 ……まあ、パイパンというのがすばらしいということはともかくとして……、本当に引っかかっているのはそっちの言葉じゃない。
 「特集」という言葉の方だ。
 「特集」という言葉を使うということは、少なくとも「特集」以外の写真も手元にあるということを暗に言っているようなものだ。
 今回は、そのコレクションの中から数枚を選んだだけ……ということになる。
 こんな写真がほかにも……。
 そう思うと、ぼくは居ても立ってもいられない気持ちに駆られた。
 素直に思う。
 ……もっと見たい……。
 ……写真を手に入れたい……と。


 そんなふうに掲示板の方を見上げながら考えていると、急に人だかりの中が騒がしくなった。
 一体何だろうと思って後ろの方を振り返っていると……、次の瞬間、身体に緊張が走った。
 人だかりがゆっくりと割れていく……。
 そして分かれた人だかりの間から見えたのは、今まさに乙女の秘密を……恥ずかしい姿を全校生徒の前に晒されている4人の美少女たちの姿だった。
 どういう偶然なんだろう?
 それとも、これも仕組まれたことなのだろうか?
 当の4人の女の子たちが、そろってこの場に現れるなんて。
 しかも、今の今まで、この掲示板のことを知らなかったみたいだ。
 そして、今この瞬間、4人の目の中にこの掲示板の写真が飛び込んだ……。



 美咲ちゃんは、悲鳴を上げながら掲示板に駆け寄って、写真をはがそうとした。
 でも、ガラスケースに入っている写真に手が届くわけもない。
 はがすことができないとわかると、今度は、「見るな! 見るな!」 と叫びながら、必死に自分の写真を手で隠そうとしている。
 だけど、そんなことをしたって無駄なんだ……。
 美咲ちゃんの小さな手じゃあ、このポスター大の写真を隠すなんて無理なんだから。
 しかもガラスケースのせいで写真との間に空間があるから、ほとんど隠せていないし。
 それに、もう美咲ちゃんのヌード姿は、ここにいるみんなの目に焼きついてしまっているんだよ……。
 いつも、男子を小馬鹿にしたような態度で挑んでくる美咲ちゃんが、こんなに取り乱している姿なんて、今まで想像もできなかったな……。

 城川さんは、一瞬目をいっぱいに見開いて息を飲んだけど、それっきりうつむいてしまった。
 でも、横から見ると顔が真っ赤に染まっているのがわかる。
 それに、握り締めた手が震えて、何かに耐えようとしているみたいだ。
 そりゃそうだろう。
 この4人の写真の中で、裸以上に恥ずかしい、一番の恥を晒しているのは何といってもおしっこをしている姿を盗撮されて晒しものにされた城川さんだ。
 しかも、普段のクールな態度で、こういうものからもっとも遠いところにいるかのような印象を築き上げていた城川さんにとって、このギャップからくる恥辱は計り知れない。
 これからは、教室の中で本を読んでいる城川さんの姿を見た人は、同時にこの放尿シーンをダブらせて見ることになるだろう……。
 城川さんは、しばらくそのまま立ち尽くしていたけど、つっときびすを返して、早足で歩き去っていってしまった……。

 鈴華ちゃんは、その場で泣き崩れてしまった。
 誰からも慕われ、愛されてきた鈴華ちゃんにとって、これほど理不尽で無残な仕打ちを受けたことは、生まれて初めてのことだろう。
 罠にはめられたことにも気づかず、惜しげもなく晒してしまった裸体。
 それがどれほど美しく可憐なものであっても、本人にとっては恥じらい以外の何ものでもない。
 おまけに、貼り付けられたもう一枚の写真。
 それは、あからさまに卑猥な意図がにじみ出すぎた悩殺ショットだ。
 水着に守られていると思って開いた股間が、ここまで無残にさらけ出されてしまったんだから救われない。
 しかも、女の子にとってアソコよりもさらに恥ずかしい……もっとも見られたくない器官であろうお尻の穴まで剥き出されてしまったんだから……。

 柚衣ちゃんは、真っ赤な顔で掲示板に駆け寄ると、横で必死に写真をはがそうと無駄な努力をしている美咲ちゃんの隣で、掲示板を背中に隠すように両手を広げた。
 そして、「誰、誰がこんなことを……」 と、こんなことをした誰ともわからない犯人に向かって涙声で問い詰めている。
 だけど、犯人なんてわからない。
 もしかしたら、この人だかりの中に、こんなことをしでかした張本人、もしくは共犯者がいるのかもしれないけど、少なくともぼくにはまったく見当がつかない。
 でも、柚衣ちゃんは、その身を直接その犯人に……もしかしたら犯人たちに……保健室で寝ているところを……寝込みを襲われたんだ。
 無防備に寝ているところを襲われて、服を脱がされ、下着を脱がされ、恥ずかしい女の子の部分を写真に撮られ……もしかしたら、その身体にいたずらをされているかもしれない。
 いや……きっとされているに違いない。
 それは、柚衣ちゃんの記憶には残っていないけど、今まさに心に傷として刻まれたんだ……。 



 その後……やってきた先生たちに追い払われるようにぼくたちは解散させられ、そしてその場に残っていた3人の女の子たちが先生に連れられていった。
 先生方も、その掲示板に張られた写真をはがそうとしていたけど、ガラスのケースがあまりに頑丈で手を出すことができずにいた。
 かなり特殊なガラスのようで、ハンマーで叩いたりしても傷ひとつつかなかったようだ。
 それに、どうやって壁に取り付けられたのか……まるで壁の一部にでもなったみたいに掲示板そのものが壁に埋め込まれていて、掲示板を壁からはずすことすらもできなかったらしい。
 結局、その掲示板を取り外すことを諦めた先生たちは、その掲示板のガラスケースの上に布をかけて目隠しするという中途半端な対処しかできなかった。
 この裏掲示板は、1週間後にかなり大掛かりな工事とともに取り外されることになったけど、その間、布をかぶせられただけのこの掲示板に貼られた写真が幾人もの目に触れられることは、避けられなかった。
 かくいうぼくも、1日1回はその布をめくり上げて4人の美少女の恥態を楽しんでいたひとりだ……。
 そうした学校公然の秘密となったこの掲示板の写真は、ぼくらの学校生活に少なからぬ影響を及ぼした。

 
 最初の日こそ、みんな4人の被害者に対して同情的な気持ちがあらわれていたけど、時間がたつにつれてその気持ちは薄らいでいき、3日もたつと、男子たちは、あの写真のことを楽しげにしゃべり出すようになっていったんだ。
 中には、当の本人に向かってあの写真をネタにからかい出す奴まで出てきた。
 このあたりは、所詮はまだ人の気持ちを気遣うことのできない、小学生のさがというやつかもしれない……。
 美咲ちゃんに向かって、「毛も生えていないのに威張るな……」 と男子のひとりが言っているのを耳にしたときは、教室中の視線が美咲ちゃんに集中した。
 しばらく凍りついた教室の時間……。
 直後、顔を真っ赤にして泣きながら走り去った美咲ちゃんの後姿には、もう、今までぼくたち男子に対して強気な態度で挑んできた気丈な女の子の面影は残っていなかった。

 城川さんは、一見、今までどおりに見える。
 だけど、あの日以来、休み時間に教室の自分の席に座って、一人で本を読む姿は見かけなくなった。
 休み時間のたびに教室を出て、どこかで時間をつぶしているようだ。
 ときおり、教室に戻ってきたところを男子に、「トイレに行ったの?」 とからかわれ、一瞬下唇を噛み締める姿など、これまでは絶対に考えられない光景だった。

 鈴華ちゃんは、あの日以来、学校に来ていない。
 自分の水着を盗まれ、すり替えられた上にあられもない姿を写真に収められたショックは、一週間たった今でも癒えていないようだ。
 ところで、すり替えられた元の水着は一体どこに行ったのだろう?
 裏アルバム編集委員会とやらが、保管しているのだろうか?
 だとすると、何ともうらやましい話だ……。

 柚衣ちゃんは、あの掲示板事件があった日の翌日には、普通の状態に戻っているようだった。
 今までどおりに、明るく元気に友達とおしゃべりしている。
 だけど、不意に誰かが柚衣ちゃんの身体に触れると、それが故意であろうが偶然であろうが、極端に驚き飛び退くようになった。
 表面上は気にしないように取り繕っているようでも、心の奥にはしっかりと傷が刻まれているらしい。
 それから……、どうやらあれ以来、柚衣ちゃんは保健室に近づこうとしていないようだが、それも無理もないことだろう……。   
 

 ぼくらの6年生の夏……そんな事件があった。
 結局あの掲示板を作った犯人は、見つかることはなかった。
 「裏アルバム編集委員会」とか、それを統括しているという「裏児童会」とか、まるで都市伝説のようなその組織は、本当に実在したのか……それとも幻なのか。
 先生たちもいろいろ調べていたようだけど、まったく手がかりはつかめなかったらしい。
 ……いつしかあの掲示板事件のことを口にする人もいなくなり、少しずつ学校は平穏を取り戻していった……。
 そして先週、卒業式を迎えるに至った。 

 卒業式の日……、美咲ちゃんも、城川さんも、鈴華ちゃんも、柚衣ちゃんも、そしてぼくらも、みな無事に卒業した。
 ほとんどの人はそのまま系列の中学校にエスカレータ式に進学することになっていたけど、あの夏の日、掲示板に恥を晒された4人だけは、少し離れた別の私立中学校への進学が決まっている。
 4人とも進路はバラバラだ。
 ぼくらの中では、とっくに終わった事件に思えているけど、4人の心の中ではまだ事件は終わっていないのかもしれない。


 そんなことを思いながら、今、ぼくは手元の卒業アルバムを開いて眺めている。
 みんなの元気な笑顔が写っている。
 中には、あの4人の女の子たちの写真もある。
 アルバムの中の彼女たちは、みな笑顔をぼくに向けていた。

 ……でも……、その卒業アルバムの横には、もう一冊のアルバムが置いてあった。
 そのアルバムは、卒業式から1週間がたったきょう自宅に届けられたもので、いま見ている卒業アルバムの4倍以上の厚みがある。
 カバーも重厚で、鍵までついているという代物だ。
 このアルバムの中身を、ぼくはまだ見ていない。
 だけど、このアルバムの中身は、きっとぼくの期待を裏切ることはないだろう。  
 

 表紙にはこう書かれている………………                                                           

―― 裏卒業アルバム ――

                                         ………………と。



戻る